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書評<イスラム国 テロリストが国家をつくる時>

シリアの凄惨な内戦、イラクでのテロが続く中東で、急速にその勢力を伸ばし、支配地域を拡大している「イスラム国(IS)」。彼らはアルカイダ、あるいはタリバンといった従来のテロ組織と何が違うのか?本書はISが目指す理想とその手段を整理していくことにより、その実態を明らかにしていく。

一般人よりは中東情勢をウォッチしているはずのミリオタでさえ、唐突に現れた感じが拭えないIS。ISはシリアとイラクの広範囲にまたがる地域をサラフィー主義に基づいて支配し、その勢いは一時期、首都バグダッドまでせまった。著者はISを従来のテロ組織とまったく違うことを明らかにしていく。
著者は大胆にもISが”アラブにとってのイスラエル”を中東地域に設定しようとしていると仮定する。首謀者のアブ・バグダディはカリフを名乗り、現在の中東の国境線を規定した「サイクス=ピコ協定」を反故にする、理想国家を立ち上げようとしているのだ。武器による恐怖と、一般的な行政を並行する用いることによって、である。その方法は現代の西欧の倫理では決して許されないものだが、論理的ではあるのだ。ISは処刑などによって対外・体内的に恐怖を蔓延させる一方で、戦闘作戦の結果や、域内財政の決算書をSNSで明らかにする。組織の立ち上がり時には宗派間対立を煽ろうとするサウジアラビアなど各国に資金を頼ったが、現在は石油の密輸などにより、経済的に自立しているのである。
こうしたISに対し、欧米各国の対応は及び腰というより、戸惑っているようにみえる。中途半端な航空攻撃でお茶を濁すのが精一杯。根本的な解決方法を探せば、実はISの方に主導権があるように感じられること自体が、中東情勢の行く先をますます見えにくくしている。
ISの影響は間接的に、欧米に広がりつつある。フランスが空母一隻を域内に派遣しても、自国民の溜飲を下げる以外の何もできないことを素直に認めなければ、不安定な世界情勢は続いていくだろう。

初版2015/01 文藝春秋/ハードカバー

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