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書評<綻(ほころ)びゆくアメリカ>

第2次大戦後、アメリカは超大国の地位を確保し、国民も"我が世の春"を謳歌した。だが1970年代以降、日本をはじめとした新興工業国が勃興し、アメリカの製造業の凋落がはじまる。一方で、投資銀行と商業銀行の垣根を取り払う法律の改正により、にわかに金融機関が大きな力を持ち始め、ウォール街こそがアメリカの時代がおとずれていた。
本書は4人のまったく異なる出自と人生を歩んできたアメリカ人と、時代の節目に現れた重要人物たちの人生を描くことにより、極端な富の偏在、激しい党派対立に代表される"分裂した"アメリカを描き出す。

本書の主人公は4人。ある政治家に感化され、ワシントンを目指し、そこに一定の地位を確保したロビイスト。貧しい家庭に生まれ、アメリカの製造業の衰退に翻弄された黒人女性。アメリカ中西部の片田舎で、トラックステーションを起業した後、グリーンエネルギーの開発に取りつかれた男性。天才的な頭脳を持ち、IT時代の勃興期にペイパルを開発し、富を築いた後も時代の最先端を走り続ける男性。彼らの人生の成功と失敗(たいてい失敗だが)を描くことにより、アメリカの時代の変化、転換点を鮮やかに描き出している。製造業の衰退による雇用の極端な減少。IT分野など一部産業は先鋭化し富をもたらすものの、産業のすそ野を広げるにはいたらず、固定化する貧富の格差。巨大小売店が全米を支配し、商品のディスカウントが給料のディスカウントをもたらす現実。特に、2008年のサブプライムローンの破たんをきっかけとするバブルの破たん前後のアメリカの現実は、地元記者の綿密な取材による土地バブルの真実を描くことにより、ウォール街の強欲な面々がもたらしたアメリカの凋落を緊張感をもって描くことに成功している。
タイトルどおり、綻びゆくアメリカを描く本書だが、一方で強烈に印象に残るのは登場人物たちの前へ進む意志とプライドだ。進歩する先進国、アメリカ国民であることのプライドが時代に翻弄され、人生の奈落に陥りつつも、なお立ち上がろうとする彼らこそが、この国の希望なのだろう。
大きな期待をかけられた黒人初のアメリカ大統領、オバマをもってしても、アメリカの綻びはとまりそうにない。そんなアメリカの現実に一部を知ることができる。ハードカバー版だと、¥4,000近くする大著だが、読む価値はある。

初版2014/08 NHK出版/ハードカバー

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