書評<無人暗殺機 ドローンの誕生>
近年、軍事航空機の分野でもっとも発展著しいのが無人機の分野である。それらはUAV、あるいはドローンと呼ばれ、長時間の監視や偵察任務、そして地上攻撃もその任務に含まれるようになり、"ロボット暗殺機"として、不正規戦が中心となる現代の戦争を象徴するものとなりつつある。本書は、アメリカ軍を中心としてもっとも多く運用されているの開発と運用の物語である。
航空機が生まれた直後から、無線による遠隔操縦により飛行する無人機は開発がスタートしている。ベトナム戦争では、偵察や囮を任務として、当時はRPVと呼ばれた無人機が実戦投入されている。それらとプレデターは何が違うのか?端的にいえば長時間飛行を可能とし、見通し線外どころか、アメリカ本土から地球のあらゆる場所を飛行するプレデターをコントロールできること、テレビカメラで捉えた映像をオペレーターに生中継できることにある。現在のプレデターの能力に至るまでに、多くの技術的ブレークスルーがあった。本書はイスラエルの若き天才の物語から始まる。長時間飛行を実現する軽量な無人航空機の開発を国営の航空工業会社に提案したものの、保守的な会社にそれを却下された彼は、アメリカに移住する。そこから始まる技術革命の物語には、多くの天才と先見の明がある経営者、軍人が登場する。登場人物の誰が欠けても、現在の無人機の隆盛はなかったと思えるほど、無人機の開発は"人間的"であった。
プレデターの運用が始まっても、苦難の物語は終わらない。既得権益を持つ者に新勢力は阻まれるのはよくある話であり、アメリカ軍やCIAも例外ではない。また、その新たな兵器をどこの誰が運用し、"引き金を引く"のか、アメリカの巨大官僚組織すら、迷いがあった。なにせ、プレデターが初めてヘルファイアを実戦で使用した際は、命令系統すらハッキリしてなかったのだ。
戦争に関わる航空機のあり方を大きく変えつつある無人機の開発は、意外なほど人間的であり、一本道ではなかった。そんな読後感を残す一冊である。
初版2015/02 文藝春秋/ハードカバー
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