書評<F-14トムキャット オペレーション イラキフリーダム>
冷戦末期、多方向から押し寄せるソ連の長距離爆撃機、あるいはASMから空母機動艦隊を守るために開発されたF-14トムキャット。高性能を誇りながらも脅威の喪失と維持費の高さゆえ、早期退役をせまられることとなった。はからずも、1991年の湾岸戦争で撃墜機ゼロであったことも、またその不要論を後押しした。
しかしながら、退役直前になって発生したアフガン戦争とイラク戦争において、トムキャットは開発された目的とは違うが、充分にその能力を発揮した。長い航続距離、2人乗りによる戦場での航空統制への貢献、精密な爆撃能力など、その特徴をいかんなく発揮した。本書は多くのパイロットに聞き取り調査を行い、トムキャットの最初で最後の大規模実戦の実態を明かすものである。
トムキャットの晩年は不遇であった印象が強い。最後まで、本来の目的である艦隊防空で活躍することはなかった。
しかし、運命の皮肉が現役生活の最後の最後で、アメリカはトムキャットに活躍の場を与えた。専用のAAMであったフェニックスを下ろし、LGBやJDAMによる爆撃任務。”ボムキャット”と呼ばれた改修型は、その能力をいかんなく発揮した。本書は今まであまり知られることのなかったボムキャットの物語であり、それが戦場でいかに有効であり、地上部隊を助けたかを理解できる。パイロットからの直接聞き取った話がメインとなるので、これまで知られることのなかった戦場での物語が満載である。また、本書は大判なので、当時の過酷な環境に耐えた色褪せたトムキャットの鮮明な写真が掲載され、模型作成の際の資料にも充分活用できる。
空母機動部隊の防空の長い槍であったトムキャットが、敵地に爆弾を落とす、戦争の皮肉。薄汚れたトムキャットはそんなことを感じさせる。
初版2015/04 大日本絵画/大型本
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