書評<恋するソマリア>
激しい内戦が勃発し、10年以上も無政府状態となり、失敗国家の代名詞となったソマリア。しかしながら、北部ソマリアでは、国際社会には承認されていないものの、「ソマリランド」なる政府が成立し、まがりなりにも秩序が保たれているという。著者は危険極まりないソマリアに潜入し、前作「謎の独立国家ソマリランド」を著した。本作は前作にて作り上げた著者とソマリランドのコネクションを生かし、ソマリランドの社会のさらに奥深くに潜入する。
著者は前作にて「ソマリランドは氏族国家である」と看破し、日本人には非常に分かりにくい”アフリカの角”の情勢を解明、説明した。固いノンフィクションではなく、冒険エッセイの形を取りながらもソマリランドとそこに住む人々を的確に描いた前作はソマリアの実情を描いたものとして、傑作であったといえる。本書はその続編であり、ソマリランドのマスコミ業界だけでなく、ビジネスや一般家庭にまで潜り込んでいく。さらに本書ではイスラム過激派の勢力が減退したことにより、これまで行くことのできなかった南部ソマリアにも取材は及ぶ。危険うんぬんはともかくとして、著者のソマリランドへの愛がなければ精神的にキレてしまうのではないかという場面の連続であり、民族により人間とはかくも違うものかと思い知らさらされる。アフリカの現状を知るうえで、本書も必読であろう。
初版2015/01 集英社/kindle版
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