書評<人類五〇万年の闘い マラリア全史>
人類は太古から多くの感染症と戦ってきた。人類は病原菌やウイルスに多くの犠牲を払ってきたが、公衆衛生と医療の発達により、致命的ないくつもの感染症に勝利をおさめた。ペスト、天然痘、赤痢など…。しかし、マラリアは古くからその脅威が認識されたながら、克服を宣言できない感染症の1つである。本書は、マラリアという病の特徴を明かし、50万年もの人類とマラリアとの戦いの記録である。
ある種の蚊を媒介として、複雑な感染経路を持つマラリアは、熱帯地域の主要な感染症であり続けている。国家を滅ぼすほどの脅威であり、多くの人類の運命を変えてきた。マラリアは、人類のDNAを書き換えてしまうほどの脅威だったのだ。本書はそうした歴史を解明していく。なので、サイエンスの分野のノンフィクションであるが、感覚としては歴史書を読んでいるような印象を残す。そうして、最後は公衆衛生の改善やキニーネなどの治療薬の開発など、いくつも克服のターニングポイントがありながらも、マラリアはいまだ克服されていない現状につなげていく。
マラリアの流行は公衆衛生の改善で劇的に低下させることができ、完全とはいえないが予防薬や治療薬もある。そのことが、かえってマラリアという感染症の克服を難しくしていることを本書は明かしていく。
例えば、本来ならマラリアが流行してもおかしくない気象状況の日本で、その流行がないのはなぜか?マラリアは人類が抱える矛盾の一部を端的に示す病である。そんな思いを巡らすことのできる、良質なサイエンスのノンフィクションである。
初版2015/03 太田出版/ソフトカバー
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