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書評<原子爆弾 1938~1950年――いかに物理学者たちは、世界を残虐と恐怖へ導いていったか?>

この世界の理(ことわり)、すなわち量子が理解されつつあった20世紀初頭、ドイツのある物理科学者が原子を臨界、分裂させ、それを急速に連鎖反応させてとてつもないエネルギーを放出させるアイデアを思いつく。そのアイデアは学者同士の交流により急速に理論化されると同時に、ユダヤ人科学者のイギリスやアメリカへの脱出により、急速に世界に拡散する。さらに第2次大戦の勃発により、それはナチスとアメリカの熾烈な原子爆弾の開発競争となり、やがて日本への原子爆弾投下に至る。本書は核兵器開発の発端からウランや重水の入手競争、アメリカのマンハッタン計画や、ソ連スパイの暗躍など、原子爆弾のの開発成功に至るクロニクルである。

ロスアラモスでの核兵器開発の経緯、そこから漏れる情報によるソ連の予想外に速い核兵器開発など、それぞれの詳細な物語と、その物語がどのように影響しあっていたのかを時系列に繋いでいく。膨大な資料を読み込み、近年開示された秘密文書により、明らかになっていなかった歴史のピースを埋めていく。著者はそれを成し遂げた。本書を読み進めると、物理学者はじめ、当時の関係者たちが何を成したのか、膨大な事実の積み重ねに圧倒されていく。重水やウランといった核兵器にかかせない原材料入手に関わる冒険。”世界の相対的な安定”の理念のもとに、ソ連に秘密情報を提供するスパイ。ナチスとの核兵器開発競争に恐れをなし、がむしゃらに核兵器開発を進めたものの、それがもたらす惨禍に気がつき、苦悩する科学者。それぞれが1冊の本になるほどの膨大な情報量であり読むものを圧倒する。もともと分厚く重い本だが、読後感はさらに重い。
科学と国家と戦争が本気を出せば何を成し遂げられるか?我々が本書から読み取るべきものがあり過ぎる。

初版2015/03  作品社/ハードカバー

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F-20 Completed

ハセガワ1/72ノースロップF-20Aタイガーシャーク、完成しました。
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F-20タイガーシャークはノースロップ社がF-5Eの後継機として自主開発した軽量戦闘機。当初はF-5Gとして開発されましたが、エンジンをF404の単発とするなど、従来のF-5系列とは一線を引く戦闘機となったため、新しいFナンバーを戴くこととなりました。
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台湾を筆頭に輸出用の戦闘機として開発されたものの、すでにF-16をはじめとした新世代機が進空しており、その最新鋭機のF-16の輸出をアメリカ政府が許可したため、「第三世界用の安価な戦闘機」という市場はなくなりつつありました。そのため、ノースロップは各国政府、それに本家アメリカ空軍のアドバーザリーとして猛烈な売り込みをかけましたが、結局採用する空軍はなく、F-20の命運は途切れました。
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少数の試験機しか生産されなかったタイガーシャークですが、日本では抜群の知名度と人気を誇ります。それはある年代のミリオタにとってのバイブル「エリア88」の主人公・風間真の乗機だったからです。鮮やかな塗装と尾翼にユニコーンをいただくその姿に、多くの男たち(女も)が魅了されました。
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キットはハセガワのキットが2個分セットされた限定版を使用して、1機は現実世界のデモンストレーター339号機、もう1機は架空世界の風間真の乗機を再現しています。
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塗装はガイアのホワイトサーフェサーとアルティメットホワイトで全面をホワイトに塗装した後にマスキング、それぞれレッドとインディブルーを吹いています。
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それぞれの機体の細いラインやマーキングは339号機にキット付属のデカール、風間真の機体にROSE RIDGE WEB SHOPのデカールを使用しています。
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F-20を製作するからにはやりたかったこのコンビ、マスキングが完璧とはいかず、またクリア掛けするときにホコリを噛ませてしまうなど、パーフェクトな出来では決してありませんが、そのスタイリッシュさに満足してます。またエリア88を再読したくなってきた。
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書評<黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実>

2000年7月、六本木の外国人バーでホステスとして働く英国人女性が行方を絶った。謎めいた伝言、被害者が中流階級の白人女性という、日本では稀な事件は、被害者家族の来日や会見など、社会で大きく取り上げられた。捜索に長い時間がかかったが、犯人は逮捕され、有罪が確定している。事件発生当初から事件を追い、被害者家族とも深い関わりのあった在日本の英国人記者が、事件の全貌を明かす。

本書は殺人事件のルポルタージュとして、加害者の残酷さをことさらに強調するものでもなければ、被害者家族への憐憫を誘うものでもない。さらにいえば、警察の捜査のずさんさを告発するものでもない。それぞれの要素はもちろん含まれているが、本書のメインテーマはあくまで事件に関わった人物たちを掘り下げていくことにある。
特に印象に残るのは、被害者ルーシー・ブラックマンの父ティムだ。彼はマスコミに対し”悲しみにくれる父”というステレオタイプな対応をすることなく、ごく冷静に事件に対処する。見方によれば、事件の対応を楽しんでいるかのごとく。そして、自らもルーシーの失踪を探偵を雇って追う。そして彼は、もしかしたらルーシーの殺人事件よりも残酷な性倒錯の世界を覗いてしまうことになる。
また、英国人から見れば奇妙な六本木の夜の街と、警察の奇妙な対応もまた印象的だ。被害者が西欧先進国の白人女性だったからこそ日本の特殊性が浮き彫りになっていく。
被害者家族と同じ英国人記者だからこそ書けた事実に、まるで良質なフィクションを読むように引き込まれるルポルタージュだ。

初版2014/05  早川書房/kindle版

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