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書評<美森まんじゃしろのサオリさん>

某県の山間にある美森町は、美森さまという神さまと、それを祀る卍社を戴く、限界集落寸前の小さな町だ。死んだ叔母の家を維持するために移住し、便利屋を営む岩室猛志と、地元出身の女子大生・貫行詐織は、町役場からの依頼を受けて、町内の小さな事件を解決する”探偵”ユニットを組んでいる。小さな村の言い伝えを下敷きにした謎解きと、限界集落を維持するために今後生み出されるであろうロボット技術を組み合わせた、SFミステリー連作。

過疎と限界集落、それをなんとか解決しないまでも維持させるための移住とテクノロジー。本書は根底に日本の抱える難題を置いて、それに民俗学を積み重ね、のんびりしたミステリーを成立させている。それには、もちろん登場人物も重要だ。よそ者でありながら、不器用ながら、地元に受け入れつつある猛志と、つかみどころのない美人で、その容姿を利用しようとして生きていこうとするが、うまくいかない詐織。話が進むごとに、2人の関係は変化していく。簡単に恋愛模様に進まないのも、また一興だ。
良質なミステリーであると同時に、”滅びつつある集落”の未来が捨てたもんじゃない、と感じさせる作品であった。果たして、日本の人口減少と高齢化に、作者の提示するテクノロジーが解決策をもたらすか?オーバーにいえば、それを見届けたくなるSFだ。

初版2015/06 光文社/kindle版

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書評<失われてゆく、我々の内なる細菌>

我々の体のあらゆる場所に、細菌が住み着いている。その数はざっと100兆個。人間の体とそれら常在菌はお互いに影響を及ぼしあい、それら常在菌が”第三の免疫”とも呼べる存在となっている。ゆえに過剰な除菌は、人体に益より害をもたらす。
一方で、細菌の中には我々を害する病原菌も数え切れないほど存在する。それらに対抗するのが抗生物質だ。カビ由来のペニシリンを発端とし、様々な抗生物質が開発され、我々人間や家畜に投与され、感染症に対して、劇的な効果をもたらした。
そして近年、抗生物質の過剰な投与が、マイクロバイオームと呼ばれる我々の内なる細菌たちに、大きな影響をもたらしていることが分かってきた。抗生物質の過剰投与と生活環境の変化が常在菌の減少をもたらし、喘息に代表されるアレルギーなどの免疫異常を引き起こしているというのだ。著者は人間と最近の関係の研究の最前線を追う。

日本は世界でも稀な”清潔・除菌大好き”な国だが、それでも近年は”腸内フローラ”など細菌叢の重要性が訴えられるようになってきた。本書は一歩進んで、人間と細菌の関係の最前線を追っている。
例えばピロリ菌。胃潰瘍や胃がんをもたらす細菌として、胃から”除菌”する治療が行われているが、著者はピロリ菌の減少が喘息の増加を招いているのではないと問う。例えば帝王切開。先進国で多用される分娩法だが、膣で”細菌の洗礼”を受けないため、免疫に貢献する菌を母親から受け継がず、”第3の免疫”を獲得しない事例が増えているという。抗生物質の無秩序な投与による耐性菌の誕生は言わずもがなだ。
本書が唱えている学説はシロウトが判断しても先鋭的で、まだ”定説”になっていないものも多い。だが、我々とともに何十万年も生きてきた細菌との関係が変化しつつあることは確かだろう。今後ともこの分野から目が離せない。

初版2015/07 みすず書房/ハードカバー

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<その〈脳科学〉にご用心: 脳画像で心はわかるのか>

近年、MRIなどの磁気・X線を使用した画像投影機器により、脳の構造や役割が解明しつつある。特にf-MRIと呼ばれる、リアルタイムに脳の血流をカラー画像で映し出す装置は画期的で、多くの”自称”脳科学者がf-MRIを使えば人間の感情の動きなどを分析することが可能で、マーケティングなどに繋げられると喧伝している。本書はf-MRIなどの画像機器の限界を解説し、一般に流通する”脳科学”を検証する。

動物の脳、特に言葉を操り、感情を有する人間の脳は、ある意味で宇宙よりも深遠で、複雑である。その脳の働きが、テクノロジーで明かされつつある、とされており、日本のマスコミでも多くの自称”脳科学者”が登場する。脱税で捕まった某もじゃもじゃなどはその典型だ。しかし、前記したように脳は複雑である。「この部位がこの機能を司る」といった学説や「右脳・左脳の機能の違い」は正しくもあり、間違いでもある。実際には神経インパルスの伝達はもっと複雑であり、例えば脳のどこかの部位が機能不全に陥っても、脳が可能な限りシナプスを繋ぎ直し、機能回復をはかろうとする。MRIで撮影された画像はあくまで現在の脳の状態と血流の動きを移すだけで、感情の動きを実際に映すわけではない。
本書はそうした事実を指摘し、あまりに”万能”化された脳科学に警鐘を鳴らす。そして、警鐘は脳と心と行動の関係に行きつく。我々の行動は、どこまで脳に支配され、心はどこまで行動を抑制できるのか?これは哲学にまだおよぶ問題であるのだが、実際には、すでに裁判にMRI画像が証拠として取り上げられつつあるのだ。
人間は分かりやすい理論を求め、現在の脳科学はそれに応えているようにみえる。だが、脳科学はまだ不完全な科学であることは、もっと知られるべきである。本書が投げかける問題は、非常に重い。

初版2015/07 紀伊国屋書店/ハードカバー

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潜水艦救難艦<ちはや>一般公開に行ってきた

今年は海自の潜水艦運用開始60周年にあたるそうです。そんな特集を<世界の艦船>で読んでいたら、潜水艦救難艦<ちはや>が一般公開されるとのことで、博多からは少し遠いですが、午前中のちょっとだけ涼しいうちに別府国際観光港に行ってきまた。
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隣に停泊しているのは練習艦<せとゆき>。<せとゆき>の公開は12時からということで、今回は計画は省略。
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DSRV(DeepSubmergenceRescueVehicle)を眺めながら乗船。DSRV周辺のトラス構造からして、メカフェチにはたまらないのであります。
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艦橋を通過して上部構造物の上階デッキには、DSRVの予備電池室。
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潜水艦の蓄電池の写真撮影なんて恐れ多いと思い、隊員さんに確認したのですが、カバーかかってるので大丈夫らしい。
んで、上部構造物からラッタルを下りて、DSRVを堪能。
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DSRVは全面リベット打ちで、意外と無骨な印象。実用一点張りですね。もらったパンフレット見ても、DSRVだけ最大深度記入なし。まあ、公開すると潜水艦の最大深度も推測されちゃうますもんね。
その横には、ダイバースーツも展示。
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ダイバーは減圧室などの装備を使用して、深度450mまで潜水するそう。
さらにはROV(RemotelyOperatedVehicle)も公開。
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コイツは民間の深海探査のときに見かけるROVと見かけそう変わらない印象。2000mまで潜水できて、遺失物の回収を行うそう。
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ステルス性を考慮して妙にスッキリした近年のDDに比べると、メカメカしく、艦船らしい構造物が残された艦艇は、とても見ごたえがあります。もちろん、最悪の事態に備えた艦艇なので、生意気な言い方ですが、訓練のすべてが”無駄”になることを祈念しております。


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