<その〈脳科学〉にご用心: 脳画像で心はわかるのか>
近年、MRIなどの磁気・X線を使用した画像投影機器により、脳の構造や役割が解明しつつある。特にf-MRIと呼ばれる、リアルタイムに脳の血流をカラー画像で映し出す装置は画期的で、多くの”自称”脳科学者がf-MRIを使えば人間の感情の動きなどを分析することが可能で、マーケティングなどに繋げられると喧伝している。本書はf-MRIなどの画像機器の限界を解説し、一般に流通する”脳科学”を検証する。
動物の脳、特に言葉を操り、感情を有する人間の脳は、ある意味で宇宙よりも深遠で、複雑である。その脳の働きが、テクノロジーで明かされつつある、とされており、日本のマスコミでも多くの自称”脳科学者”が登場する。脱税で捕まった某もじゃもじゃなどはその典型だ。しかし、前記したように脳は複雑である。「この部位がこの機能を司る」といった学説や「右脳・左脳の機能の違い」は正しくもあり、間違いでもある。実際には神経インパルスの伝達はもっと複雑であり、例えば脳のどこかの部位が機能不全に陥っても、脳が可能な限りシナプスを繋ぎ直し、機能回復をはかろうとする。MRIで撮影された画像はあくまで現在の脳の状態と血流の動きを移すだけで、感情の動きを実際に映すわけではない。
本書はそうした事実を指摘し、あまりに”万能”化された脳科学に警鐘を鳴らす。そして、警鐘は脳と心と行動の関係に行きつく。我々の行動は、どこまで脳に支配され、心はどこまで行動を抑制できるのか?これは哲学にまだおよぶ問題であるのだが、実際には、すでに裁判にMRI画像が証拠として取り上げられつつあるのだ。
人間は分かりやすい理論を求め、現在の脳科学はそれに応えているようにみえる。だが、脳科学はまだ不完全な科学であることは、もっと知られるべきである。本書が投げかける問題は、非常に重い。
初版2015/07 紀伊国屋書店/ハードカバー
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