書評<代替医療の光と闇 ― 魔法を信じるかい?>
アメリカは先進医療の本場だが、同時に代替医療の話題にも事欠かない。古くは効きもしない丸薬の販売から始まり、現在ではサプリを開発・販売する業界が一部の政治家と組んで、医療業界に絶大な影響力を持つ。怪しげな薬品を規制するため、FDA(連邦医薬品局)が設立された後も、その規制をかいくぐる努力を”代替医療業界”は怠っていない。本書は主にアメリカの代替医療市場の歴史と実態を紹介する。
アメリカの代替医療の特徴は(アメリカに限らないが)、代替医療の開発者がマスコミに取り上げられることによって”マスコミの寵児”となり、それにハマったセレブが”広告塔”になる事例が多いことだ。代替医療による、ほんの一部の”奇跡”がマスコミに大々的に取り上げられ、高価で、副作用も伴う通常医療に代わる治療として注目される。セレブは藁をもすがる思いでその代替医療に飛びつくが、だいたいその結末は悲惨だ。
サプリもそうである。例えばコラーゲンを経口摂取しても、唾液と胃酸でアミノ酸で分解されるだけのことだ。それだけなら詐欺ですむが、一部の栄養補助食品は取り過ぎると逆に毒となる。本書は医療行為が本格化した19世紀末から、そうした事例を時系列に紹介し、また代替医療業界とFDAの暗闘も明かしていく。
本書で最終章に協調されるのは一部の”奇跡”を実際に起こすプラシーボ効果の重要性だ。人間の体と心は不思議なもので、”思い込み”が病気の回復につながる事例が実際にあるのだ。その”奇跡”のみを重要視して、助かったはずの命が失われた事例には事欠かない。一方で、代替医療の実践者たちは、奇跡を求める患者とその家族につけこみ、今日も大金を稼ぐ。
サプリなんざ飲むのもアホらしい、そんな気持ちでいっぱいになるノンフィクションだ。
初版2015/09 地人書館/ハードカバー
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