書評<中国第二の大陸 アフリカ:100万の移民が築く新たな帝国 >
中国経済が急成長を始めた20年ほど前から、中国企業あるいは中国の起業家のアフリカ進出が目立ってきた。道路などのインフラ、スタジアム、病院の建設と石油や地下資源の採掘権をいわばバーター取引する形で、経済成長を続けるアフリカ各国の政府に食い込みつつある。
このことに対し、アフリカの一般市民の反感は強い。自由経済の発端となる小売業も中国人が進出し、アフリカ人の出る幕はない。土木工事の援助とはいっても、中国の場合は資金調達から建設業者、現場の施工業者に至るまで中国本土からの持ち込みで、アフリカの一般市民にはそれを利用するくらいしか利益がなく、ただ失業率を高めているだけなのだ。
本書はそうしたアフリカへの中国の進出の実態を探るものだ。メインとなるのは、アフリカ各国ですでに地場を築いた中国人たち、そのカウンターパートナーである各国政府の要人、政府へ情報開示を求めるNGOなどへのインタビューだ。中国人たちはどのような将来像を描き、遠き地へ渡ってくるのか。中国人たちはアフリカで何を成し遂げようとしているのか?それを明かしていく。
実質的な植民地支配につながるのではないかと、何かと評判の悪い中国人のアフリカ進出。だが、本書を読むとその単純な思い込みは覆される。
まず、アフリカに滞在している中国人は多様だ。もちろん、共産党政府の代理人として資源開発や土地利権に食い込む中国人たちも多数いるが、一方で裸一貫で、チャンスを求めてアフリカに渡ってきたものもいる。文化大革命の余波で正式な教育を受けることもなく、また現在の資本主義的な中国の体制の恩恵を受けることも出来なかった人たち。中国政府の息苦しさに耐えかねて、自由な土地を求めた人たち。エネルギッシュでハングリーなその人たちは、欧米や北アフリカの国々に代わって、アフリカ経済を実質的に支配しようとしている。
だが、それがいつまで続くか?中国政府を後ろ盾にした大企業は、ますますアフリカの資源を食いつぶすだろう。有限な資源が尽きたとき、彼らはどこに向かうのか?起業家であった移民第一世代ともいえる中国人たちの後継者は、中国本土の豊かさを享受し、厳しいアフリカの環境に適応しているとはとてもいえない。
背景が多様な中国人移民が落ち着く先はどこか?アフリカ、あるいは世界の未来がまったく見通せない状況の中で、彼らも例外ではないのだ。
初版2016/03 白水社/ソフトカバー
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