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書評<シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧>

2015年1月7日、イスラム教を揶揄する風刺画を掲載していたフランスの週刊誌、シャルリ・エブドの編集部が襲撃され、編集部員など12名が殺害された。イスラム過激派の犯行であったが、大きな犠牲にフランス社会は大きな衝撃を受け、憤り、報道と表現の自由、信教の自由を守るとの意図をこめた「私はシャルリ」というボードを掲げた大規模なデモが巻き起こった。フランスのリベラルな社会を象徴するデモだったが、実はそうではないことを、著者は見抜く。事件の背景にあるEUとユーロ通貨体制の中で揺れるフランス社会を分析し、その実態を著者は指し示していく。

著者は人口動態学者として有名な人物であり、本書も街の人の声や政治家の主張といった感情的な議論ではなく、フランスの地方ごとの宗教や家族制度、失業率などを分析してフランス社会の実態を暴いていく。
そこには様々な側面がのぞく。例えばシャルリ・エブド襲撃事件の背景として、パリ郊外の貧困に苦しむイスラム教徒の若者たちがクローズアップされたが、じつはフランス社会は混合結婚(宗教・人種的に)の比率が非常に高く、宗教の壁は報じられるより低くなっており、むしろ若者たちを駆り立てるのは不平等であること。むしろ、イスラムに嫌悪感や恐怖を感じてるのは中産階級であること。ユーロ圏に属し、過剰な経済競争にさらされ、高い失業率こそがリベラルなフランスを変容させており、それに対して政治家がとことん無策であることを、著者は厳しく糾弾する。
ご存知のように、2015年11月には120人以上の犠牲者を出すパリ同時多発テロが起こる。フランスはますます頑なになろうとする。極右の政治家の台頭が懸念されているが、左翼政党である現与党も、基本的に言っていることは変わらないのだ。ヨーロッパの苦悩は終わりそうにもない。

初版2016/01 文藝春秋/文春新書

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