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書評<外人部隊125の真実>

日本人も複数所属していることで有名なフランス外人部隊。フランスに有事があった際、常に最前線に配置され、実戦投入されている。勇猛果敢な部隊の様子はいくつかの著作やネットで漏れ伝わってくるが、組織とそこに所属する部隊兵としての外人部隊の実態とはどんなものか。17年在隊した日本人上級伍長が短い125のコラムで明かしていく。

先に書いたように、本書は戦闘記録ではない。いわば、日本人のためのフランス外人部隊の”案内書”だ。入隊にあたって、必要な書類といった事務的なもの、フランス外人部隊が何を重視し入隊選抜をするかといった精神的なものからはじまり、所属部隊にどのような国の人間がいるか、部隊でどのように振る舞えばいいかなど、事細かに記してある。まるで就職ガイダンスであるが、そのぶん、平時の外人部隊の様子が伝わってくる。
本書を読んで一番印象的なのは、とにかく「フランス語を勉強しろ!」ということである。日本人が何を外国人にバカにされるのかといえば、言葉らしい。著者があまり高く評価していない東欧出身の連中でさえ、2か国語がしゃべれるのは当たり前。こっちまで「第2外国語、今からでも身につけるか」と思わされる。

初版2016/03 並木書房/ソフトカバー

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書評<未確認動物UMAを科学する モンスターはなぜ目撃され続けるのか>

ビッグフット、イエティ、ネッシー、モケーレ・ムベンベ。世界中でファン?を持つUMA(未確認生物)である。本書はこの代表的なUMAの起源から、どのようにして「噂」が広まり、発見のための捜索が行われるようになったか、詳細に記し、いずれも捏造であることを明らかにする。そして人々はなぜ、UMAに魅了されるのかを解読していく。

私もUMAが大好きである。数多い出版物を読んで、その全てが捏造と結論が出ていたとしても。UMAそのものはおそらく存在しないにしても、それを巡る人物の物語や民俗学、生物学的なアプローチが興味深いからだ。
UMA関連本を読み漁った過去があっても本書が新鮮なのは、海外の著者の解説本だからだろう。著者は代表的なUMAは1933年公開の映画「キングコング」の影響があるとする。キングコングと、画面に登場した先史時代の巨大生物たちが、大衆に大きな印象を植え付けた。そのころちょうど学校教育が普及し、科学的アプローチが貴族と学者のものだけではなくなっていた。エンターテインメントと科学的アプローチが結びつき、科学とオカルト両方の要素をもつ”学問”が生まれたとの著者の分析は鋭い。
UMA研究書の決定版となる一冊である。

初版2016/05 化学同人/ハードカバー

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書評<【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛>

2016年は「サイクス=ピコ協定」の締結より100年経過した、節目の年である。オスマン帝国の崩壊後の国境線をフランスとイギリスで定めたこの協定は、当時の民族分布を無視した領土分割で、現在の混乱した中東情勢を招いた元凶の1つとされている。それは果たして真実か?本書はそれを解説していく。

結論からいうと、著者はオスマン帝国下の中東は国境線がはっきり引けるほど民族・部族は別れて暮らしておらず、無理矢理な線引きが民族や宗派を引き裂いたわけではない、ということだ。また、単一の「アラブ国」を築けるほどの”意識”を地域の部族長たちが持っていたわけではないようである。いままで、大国のエゴがアラブ世界の混乱の一因だと思っていたが、そうである面と、もっと前からの因縁である面を整理できる、貴重な解説を提供してくれる本である。
「人類全体としての歴史を変えたのは第2次世界大戦ではなく、第1次世界大戦である」と、つくづく感じさせてくれる本でもある。近代の転回点をもっと勉強すべきだな、と個人的に思わせてくれる本でもあった。


初版2016/06 新潮社/新潮選書

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書評<クロニスタ 戦争人類学者>

人類が個々人の認知や感情を共有する“自己相"が普及した社会。社会的規範や価値観も共有することにより、いわば人類の脳を”1つの個”としてまとめ、紛争をなくすことを目指し、人類は可塑神経網作成ナノマシンを脳内に構築した。
だがそれは、自己相での管理を嫌う民族や個人との軋轢を生みだした。共和制アメリカは彼らを”難民”と称し、強引な自己相構築を進めていた。その際に、自己相を各民族に合わせて調整するのが”戦争人類学者”、クロニスタである。クロニスタである主人公は、その自己相普及の過程で明らかに従来の人類とは違う、金髪の少女に出会う。それをきっかけに、主人公は自己相が持つ危険性に近づいていく。

人類がテクノロジーにより、1つの個に近づいていく。だがその過程で、個々人の個性や感情を「共有していく」ことの危険さに気づく...数多くのSFで繰り返されてきたモチーフだ。本作は「テクノロジーを共有する人とそうでない人の軋轢」から「テクノロジーそのものの危険性」へ近づいていく物語であり、ストーリーが進むにつれて親友やヒロインとの関係までが崩れていく様は、いくたのSFに負けぬスリルがある。同時に、繰り返されるモチーフ故、ちょっと先が読めてしまうのも残念。著者はポスト伊藤計劃の筆頭らしいが、本作は人類に対してドライにいくかウェットにいくか、いまいちハンパな立ち位置だと思う。しかしながら、SF分野の見事なストーリーテラーであることは確かだ。次作に期待する。

初版2016/03 早川書房/ハヤカワ文庫JA

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書評<人類のやっかいな遺産──遺伝子、人種、進化の歴史>

自然淘汰や性淘汰によって起こる生物の進化は、そのイメージほど長い時間が必要なわけではない。寿命の短い昆虫類だけでなく、我々が属する哺乳類も、ほんの数代で環境に合わせて特質が変化することが分かってきた。ならば、人類もまた環境に合わせて遺伝子を変化させているのではないか?肌の色や運動能力は言うに及ばず、貧富の差や暴力との関係といった、従来なら文化的側面で捉えられてきた人類の”格差”も進化に関係するのではないか?本書はそのことを問い、人類の歴史を探っていく。

人類の進化を解説するポピュラーサイエンスとして本書を手に取ったが、実質的に本書は科学書ではない。本書に書かれている内容は著者が「これは文化的所産ではなく、進化によるものではないか?」と推測を並べているだけである。例えば「ユダヤ人はなぜ富裕層が多いのか」という問いには、ユダヤ人の離散と隔離の歴史を生物学でいう”淘汰圧”と捉えているが、それにはなんの科学的根拠やデータはない。社会的行動から推測しているだけだ。それを「いずれは遺伝子解析で正しいと証明されるに違いない」と最後にまとめているのである。文化的側面と遺伝的側面を臆面もなく繫げるのは、科学として妥当とは思えない。
本書は本国での刊行後、「人種差別を助長する」と批判されたそうだが、それ以前の問題だ。

初版2016/04 晶文社/ソフトカバー

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書評<軍事大国ロシア>

ソ連崩壊以来、ロシア軍は経済的、政治的混乱を要因として、ドラスティックな変化を遂げてきた。常に情報をアップデートしておかないと、現在のロシア軍の実態は見えない。本書は2016年現在のロシア軍のドクトリン、組織、装備を簡潔に説明し、ロシア軍が何と戦い、何を備え、将来はどうなろうとしているかを見極める。

ソ連崩壊後、その活動が著しく低下し、もはやNATOをはじめとした近隣諸国の脅威ではなくなりつつあったロシア軍。だが、経済的混乱から立ち直るとともに、その力を取り戻してきた。その過程で、大きな実戦と改革を経験し、20余年で軍の組織やドクトリンは大きく変化している。本書はそのアウトラインを解説し、ロシア軍がどんな変貌を遂げたか、あるいは何が変わらなかったかを解説する。また、軍そのものだけではなく内務省関連の準軍事部隊なども解説に加えられており、ロシアを取り巻く軍事的環境を知ることができる。
日本とは比べることができないほど軍隊が身近にあるロシアでは、軍事情勢を探ればおのずとロシアという国が見えてくる。それゆえ、ロシア国民が持つ価値観の一部を知ることが出来るのも、本書の特徴だ。著者が「軍事大国ロシア」とタイトルがつけたのは、何も戦力や組織のことだけを言っているのではないことが理解でする。
専門書としては説明も平易で分かりやすく、ロシア軍の知識を幅広く得られる一冊である。


初版2016/04 作品社/ハードカバー

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