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2016.07.04

書評<人類のやっかいな遺産──遺伝子、人種、進化の歴史>

自然淘汰や性淘汰によって起こる生物の進化は、そのイメージほど長い時間が必要なわけではない。寿命の短い昆虫類だけでなく、我々が属する哺乳類も、ほんの数代で環境に合わせて特質が変化することが分かってきた。ならば、人類もまた環境に合わせて遺伝子を変化させているのではないか?肌の色や運動能力は言うに及ばず、貧富の差や暴力との関係といった、従来なら文化的側面で捉えられてきた人類の”格差”も進化に関係するのではないか?本書はそのことを問い、人類の歴史を探っていく。

人類の進化を解説するポピュラーサイエンスとして本書を手に取ったが、実質的に本書は科学書ではない。本書に書かれている内容は著者が「これは文化的所産ではなく、進化によるものではないか?」と推測を並べているだけである。例えば「ユダヤ人はなぜ富裕層が多いのか」という問いには、ユダヤ人の離散と隔離の歴史を生物学でいう”淘汰圧”と捉えているが、それにはなんの科学的根拠やデータはない。社会的行動から推測しているだけだ。それを「いずれは遺伝子解析で正しいと証明されるに違いない」と最後にまとめているのである。文化的側面と遺伝的側面を臆面もなく繫げるのは、科学として妥当とは思えない。
本書は本国での刊行後、「人種差別を助長する」と批判されたそうだが、それ以前の問題だ。

初版2016/04 晶文社/ソフトカバー

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