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書評<錆と人間 (ビール缶から戦艦まで)>

人間が鉄を道具として久しいが、それは錆との戦いの歴史でもあった。テクノロジーが発展した今でもそれは変わらない。建物や橋、パイプラインといったインフラから缶詰まで、多くの人間が錆との戦いを職業としている。本書は腐食と戦う人間を扱ったノンフィクションである。

本書は腐食し、その運命が怪しくなったニューヨークの女神像の改修のエピソードからはじまる。冶金技術や合金技術、塗装技術が発達した近代・現代でも、エンジニアたちは錆と戦っている。我々の身近なものでいえば、缶詰や缶飲料がそうだ。食品や飲料に含まれる酸は、鉄を侵していく。ゆえに、鉄と食品を遮断するコーティング技術は缶メーカーの秘中の秘だ。発がん物質が含まれているともいうが、真実は定かではない。
規模の大きな事例だと、最終章のパイプラインのメンテナンスは圧巻だ。数百㎞におよぶステンレスのパイプラインを維持するテクノロジーの数々。人類が鉄を使うようになっておそらく数千年は経つはずだが、我々はまだそれを使いこなせていないのだ。
錆との戦いは人類とテクノロジーの関係を象徴していると感じさせる一冊だ。


初版2016/09 築地書館/ハードカバー

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書評<ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造>

アメリカにおけるドラッグに関する犯罪は深刻であるが、とうのアメリカ人の多くが、ドラッグとその犯罪発生のメカニズムを誤解している。ゆえに、効果的かつ根本的な解決策を政策として実行していない。著者は自分の半生を赤裸々に語ることで、そのことを明かしていく。

本書はドラッグに関する社会学や犯罪学の本というよりも、黒人の神経学者の具体的体験を軸に、ドラッグ依存の問題と誤解を分析するものである。著者はフロリダの黒人街の生まれで、多くの姉妹を持ち、複雑な人間関係のもとで育っている。著者は幸運にも黒人街から遠く離れ、大学教授として成功している。だが、多くの親類・友人たちは貧しい黒人街にとどまったままだ。彼は地元とは分断してしまった。ゆえに、ドラッグと社会構造の歪な関係を指摘できる立場にある。
神経学者である彼は、動物実験や人間の被験者を通して、ドラッグ(この場合はコカインクラック)がさほどの依存性がないことを指摘する。実際問題として、コカイン体験者のほとんどは依存症には至らない。ではなぜ、人はドラッグを買うのか?それは貧困ゆえに未来のない人生ゆえであり、その不安からドラッグに手を出すし、その取引額の大きさから犯罪に手を染める。そこに人種問題が絡む。ドラッグ経験者は人種を問わないが、逮捕者は圧倒的に黒人が多い。警察はてっとり早くストリートの黒人をしょっぴくのだ。多くの黒人少年たちはそれを繰り返すうち、本物の犯罪者になる。例えばメキシコからのコカイン密輸ルートが断てたとしても、貧困、人種といった社会的な問題が解決しなければ、それに代わる薬物が出てくるだけである。
著者が神経学者でありながら、案外とそれに関する記述は少ない。本書はあくまで著者本人の自伝と、日本人があまり知ることのない黒人社会の実際を知ることが出来る本と見なすべきであろう。


初版2017/01 早川書房/ハードカバー

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書評<毒々生物の奇妙な進化>

世界には哺乳類、爬虫類、水棲生物、昆虫問わず、多くの毒を持つ生物がいる。人間をも瞬時に死に至らしめる毒を持つ生物も多く、そのことが逆に多くの生物学者を引きつけている。本書は数少ない毒を持つ哺乳類であるカモノハシをはじめ、多くの毒の持つ生物を取り上げ、奇妙とも必然ともいえる進化の謎にせまっていく。

我々はヘビあるいはフグなど多くの毒を持った生物を知っているが、意外とその毒が具体的に何に作用し、激痛や死をもたらすのか、意外と理解していない。本書は著者の多くの体験を通して、それら毒を持つ生物の実態にせまっている。
生物の毒とは、主に神経毒と血液毒に分かれる。とはいえ、多くの生物が他者に”射ち込む”のはそのカクテルだ。それゆえ解毒はやっかいである。それら恐ろしい生物は、逆にいえば体内で毒を生成するため、多くのエネルギーを使っている。果たして、それは生きていくうえで収支があっているのか?あまりシロウトが思いつくことのない視点で、毒をもつ生物を解説する。
また、定説を覆すエピソードもある。コモドオオトカゲは、今でもテレビなどでは「口の中の雑菌が咬まれた生物を腐敗させる」と解説されることもあるが、実際にはオオトカゲは毒腺を持っているのだ。
一方で、まだ生物の毒には分からないことも多い。それゆえ、研究は続いているし、謎を解けば「毒と薬は紙一重」という言葉にもあるとおり、人類を救う薬の原料となることもあるのである。生物の謎の1つを探りたい方におススメだ。
 
初版2016/02 文芸春秋/ハードカバー

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