書評<ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち>
2016年のトランプ大統領の当選により、オハイオ州やその周辺のいわゆる”ラストベルト”(錆ついた工業地帯)と呼ばれる地域の白人たちが注目されることとなった。東海岸や西海岸の都市圏の発展から取り残され、学も職もなく、底辺を生きざるをえない、古くからのアメリカ人たち。彼らのおかれた環境とはどのようなものなのか?現在は故郷を離れていわゆるエリート層に属することになった著者がその経歴と家族の物語を語ることにより、繁栄に取り残され、エリートや移民を憎む彼らの実態を明かしていく。
トランプ大統領の選挙戦の勝利が「貧困白人たちの怒り」に押されたものであったことは、マスコミなどでもずいぶんと放映された。本書はその手がかりとなるものだが、アメリカという国のかたちを改めて考えさせられる。
「分断したアメリカ社会」といわれる昨今だが、そもそも、いわゆる鉄鋼など旧来の重工業が衰退する以前も、アメリカは分断していた。家族、故郷との絆が深く、大学への進学あるいは故郷を離れて働くことが非現実的な人たち。彼らが中間層でいられたのは、工業地帯があったからだ。世界的な競争の中で重工業が衰退すると同時に、彼らは他の生き方も分からずに、貧困層に落ちていく。失業こそが、社会で一番の害悪であると理解できる。
著者は、白人たちの生き方自体も指摘する。教育がないのではない。時間を守るといった基本的な約束事を守れない、離婚と結婚を繰り返す親たちとそれを見て育つ子供たち。移民であれ誰であれ「誰かのせいにすべきではない」と著者は唱える。
アメリカの田舎の価値観を知ることが出来ると同時に、彼らの価値観の中から、教訓をえられる”エレジー”である。
初版2017/03 光文社/ソフトカバー
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