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2017.07.19

書評<心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで>

近年、人間をとりまく細菌、寄生生物の研究が進み、注目を集めている。寄生生物に寄生された昆虫が、寄生生物に有利なよう、非常に奇妙で興味深い行動をとることが知られていたが、ネズミなどの哺乳類、はては人間の脳にも細菌が侵入し、人間の行動をコントロールされているという証拠が確実に積み重なりつつある。本書はそうした事実に加え、細菌に対する人間の本能が文化や社会に影響を与えているのではないかという最新の研究を紹介する。

脳に寄生するトキソプラズマが、人間の行動を狂わせ、例えば交通事故などのアクシデントを引き起こしているのではないか?近年、こうした説が真実味を帯び始めている。寄生生物はもちろん以前から研究されているが、それは感情や行動面に変化を与えているというのだ。本書はそうした研究の最前線を追う。それは細菌や寄生生物の直接的な影響だけではなく、細菌に対する嫌悪が社会を変えているのではないかという研究までいきつく。もちろん、何事も寄生生物のせいにするのは物事を単純化し過ぎだが、それでも差別など文化的な側面で語られがちな我々の感情に、多少なりとも影響があるのは確実だろう。本書はそうした科学者たちの見解を紹介していく。

初版2017/05 インターシフト/ハードカバー

2017.07.18

書評<J2&J3 フットボール漫遊記>

Jリーグの魅力はトップリーグのJ1だけではない。むしろ、J2あるいはJ3の方が、それぞれのチームの所在地の歴史と使命を背負い、ユニークで興味深い戦いを続けている。本書はJFL時代から下部リーグをウォッチングしている著者が、J2、J3のチームの現場を訪ね、試合を観戦し、チームのキーマンと会うことによって、それぞれのチームの魅力を解き明かしていく。

著者もあとがきで書いているように、人口減少と地方衰退の時代である。そんな時代に日本には札幌から鹿児島まで、Jリーグのチームが存在すること自体が、奇跡にも思える。現に紹介されるチームのうち、順調に成長してきました、みたいなチームはまったくない。チーム消滅に直面したこともあるチームもある。予算もないのに、地方経済をなんとか盛り上げようとする地域の象徴とされるチームもある。応援する価値のないチームなど存在しないのだ。
当方、J2落ちに常に怯えるチームのサポーターを自認しているが、J2クラブのある地方を漫遊するのも悪くないのではないか、そんなふうに感じさせてくれる一冊である。

初版2017/07 東方出版/ソフトカバー

2017.07.17

VF-31J Completed

ハセガワ1/72VF-31Jジークフリード、完成しました。
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VF-31Jジークフリードは「マクロス⊿」に登場する可変戦闘機であり、主人公の搭乗機。「戦術音楽ユニット;ワルキューレ」と連携するため、量産型VF-31を改修し、フォールドウェーブ・システムを搭載、前進翼を採用するなどの特徴を持ちます。
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キットはハセガワ1/72の新商品。エアショーパフォーマンスを行うパーソナル僟という設定から、これまでのVFと比べても格段に塗装が派手、つまり塗り分けが難しい塗装が採用されており、そのためにエアインティークや背部ブロックに塗り分けしやすいようにパーツ分割されています。クリアーパーツの合いもよくさすがハセガワなのです。
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塗装は主人公ハヤテ機を再現した後、バンダイの同スケールキットに付属するデカルチャーデカールを使用して、いわゆる”痛機”に仕上げてあります。機体のラインの塗り分けは塗装と付属デカールを使用。いろいろタッチアップもしたので、微妙なラインも塗装にすべきだったか、と後から後悔。ちなみに説明書の塗装図は原寸大なので、マスキングシート作ることも、メーカーとしては配慮してるのだと思います。
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バンダイのデカールは大判で予想外に薄く、曲面にもなじみますが、デカール軟化剤にも弱い。なんか不自然なところがあると思いますが、ピンセット引っかけてデカールがやぶけ、泣く泣くそうしています。
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当方、現用機モデラーなので、デカールの扱いだけは多少自信があったのですが、やはり大判デカールの扱いは難しい。ピンセットもデカール用にピタリのものを改めて探さなければ、と感じました。もう1回作りたいなあ。

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2017.07.03

書評<宇宙軍陸戦隊 地球連邦の興亡>

植民惑星に降りた学術調査団からの保護要請を受け、地球連邦は国場大尉率いる宇宙軍陸戦隊を救出に派遣する。そこではテラフォーミングが未完成な湿地帯で、想像だにしない内戦が繰り広げられていた。宇宙軍陸戦隊はその双方と接触した後、苦渋の決断を下す。

人類の生存をただ追求する地球連邦政府と宇宙軍。異星人たちとの睨みあいも含めた政治状況から、地球連邦政府は、ある程度の規模の”内戦”を容認していた。前作まではオリジナルとクローンの難しい関係性を描いていたが、本作はそれを超え、遺伝子をいじくり倒した人類の姿をしていない人類と、オリジナルの姿と価値観を守った内戦を描き出す。遠く宇宙に人類が進出するなかで、何をどこまで許容するのか。地球連邦の首脳あるいは現場判断を一任された宇宙軍陸戦隊の隊長になりきり読者が考えるのも面白い。凄惨な戦いを描きながら、最後はカタルシスを描き出す。

本書には、短編ではあるが「シン・ゴジラ」のパロディが収録されている。あの作品の公開時、著者が健在だったことを思うと、やはり哀しい。

初版2017/05 中央公論新社/kindle版

2017.07.02

書評<世界の辺境とハードボイルド室町時代>

日本の歴史の中でももっとも混乱し、ルール無用な世界であった応仁の乱と室町時代。対して、今もほぼ無政府状態にある失敗国家の代表格、ソマリア。混乱続くソマリアで、秩序らしきものがある地域、ソマリランドで取材を重ねた高野秀行氏が「ソマリアは室町時代に似ている」と感じたことから、歴史学者の清水克行氏と対談。見識ある2人のやり取りが時代も地域も違う2つの地域の共通点を相違点を見出していく。

なんだか固い紹介になってしまったが、高野氏の他の著作と同じく、柔らかい文体でありながらも、興味深い文化比較論が展開されていく本書。複数の秩序が重なり合う状況、複雑怪奇な通貨体制、一筋縄ではいかぬ地縁、血縁の繋がり。日本の歴史の中にもあった動乱の状況が、現代のソマリランドと比較することにより、より鮮やかに描き出す。
本書はそうしたソマリアと室町時代の日本を比較するだけではなく、高野秀行氏、清水克行氏それぞれの経歴や文章の書き方などに及ぶ。まったく違う2つの分野の知識の重なり合いが非常に面白い一冊である。

初版2015/08 集英社/Kindle版

2017.07.01

書評<増補新版 イスラーム世界の論じ方>

日本における数少ない中東およびイスラム教の識者、池内恵氏による、評論集。主にイラク戦争前後、2003年~2006年までの期間、自衛隊のサマワ派遣から日本人人質事件など、イスラム世界と日本が急速に関わりを深くした時期に、新聞やオピニオン誌に掲載されたものをまとめたものである。

日本の報道番組に出演する中東、アラブの専門家と呼ばれる人は、過剰に”アラブの代弁者”であることが多い。例えば、中東世界の混乱のすべてを「サイコス=ピコ協定」に始まる欧米の横柄な外交と武力介入に原因を求める態度をとる専門家に対して、本書の著者池内恵氏は過剰にアラブ側に寄ることなく、冷静にイスラムの世界を解説する。著者はコーランとイスラムを最優先とするイスラム世界の行動原理を説き、日本の戦後の主流の価値観(西欧的なキリスト教に根差す倫理観)とは決して相容れないことを指摘する。「信教の自由」一つとっても、イスラム教と他の宗教は平等に並んでいるわけではなく、イスラム教がまずありきであるアラブ世界のルールを、本書では幾度も指摘する。世俗主義の我々の世界とは違う世界があることを、まずもって理解しなければならない。
中東とイスラム世界がトラブルメーカーであることは否定できない昨今、氏の分析をもっと読みたいものだ。


初版/2016/05 中央公論新社/ハードカバー

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