書評<戦争がつくった現代の食卓-軍と加工食品の知られざる関係>
缶詰がナポレオンの欧州遠征のため、保存食が求められ開発されたのはよく知られた歴史だが、現在の我々の食卓にも、軍事用に開発された技術が多く導入されている。プロセスチーズ、長期保存パン、レトルト、エナジーバーといった食品、サランラップやフリーズドライといった食品包装技術は、アメリカ軍のある研究所に起源を持つ。本書はそれらの知られざる歴史を追う。
著者はいわゆる”手作り信仰”ともいえる料理研究家で、子供たちにも学校にサンドイッチなどの昼食を持たせていた。ある日、著者は気づく。学校が給食で提供する、長期保存がきくフリーズドライ食品や冷凍食品の方が、自分の調理する昼食より、栄養価が高いのだ。そこで著者はそれらの食品の起源の取材を始める。その中心には、2つの大戦の戦間期に設けられた陸軍のネイティック研究所と、民間の食品製造業者の協力があった。世界中に長期派遣される兵士たちに、栄養と美味しさを届ける。その技術が、いかに我々の日常に入り込んでいるかを本書は明かしていく。ミリオタならすでに知っている知識も多いが、スーパーに並んでいる加工食品のテクノロジーが実は、長期研究が必要だったことなど、苦難もみてとれる。軍、つまり国家が研究費を提供し、民間業者が研究と製造を進める。アメリカの強さも垣間見ることが出来る1冊である。
初版2017/07 白揚社/ハードカバー
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