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2017.08.18

書評<新版 日本のルィセンコ論争>


ソ連の生物学者、ルィセンコは、1930年代に小麦の生育段階の温度変化によって農作物を増産できるとの理論をはじめ「獲得形質は遺伝する」とする唱え、主流であったメンデル理論を否定した。この理論は実験による検証を経ないままスターリン政権の庇護を得て、スターリンはルィセンコに批判的な学者を弾圧、科学が政治に捻じ曲げられただけではなく、農業生産に大損害をもたらした。
日本にもその学説が上陸し、特に太平洋戦争敗戦後、共産主義の台頭ともに生物学会と農業に混乱をもたらした。日本でルィセンコ理論が台頭していった過程を、当時の科学者たちの問題意識や議論を精緻に追うことで描きだす。

本書は1967年に刊行されたものに、現代の解釈を加えた新版であり、いわゆるルィセンコ学説と現代のエピジェネティクス理論の違いを踏まえたうえで、当時の生物学会の状況を知ることができる。
ルィセンコ学説が日本に紹介された当初は、科学的な論争だった。それが共産主義と戦後の政治状況に絡み合い、「絶対的に正しいもの」に変質していく様が見てとれる。それはやがて”農民たちをオルグする”という政治と科学が結びついた異様な運動となった。だが、実験実証を伴わない机上の空論は失敗し、分子生物学の発展によりルィセンコ学説は消え去っていく。再現実験を伴わない科学とイデオロギーの結びつきがいかに危険か、そしてその失敗を取り戻すためのコストが高くつくことを本書は示唆している。その深刻さは、50年を経た今でも色褪せない教訓である。


初版2017/07(新版)  みすず書房/ハードカバー

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