書評<誰も語らなかったジブリを語ろう>
現在、アニメの制作スタジオとしては活動停止しているスタジオジブリ。批判されることが少ない宮崎駿、高畑勲両監督を中心としたスタジオジブリ作品であるが、宮崎駿のケンカ仲間でもある押井守監督が、褒めるところは褒め、けなすとかはけなす。本音で語るジブリ作品批評である。
当方、押井守信者だが、実は他人の映画を語る押井守が一番面白いのではないかと前々から思っている。なので、TVブロスの連載をまとめた本書の発行は嬉しい限り。連載の再録なので、批判と賞賛は繰り返される傾向にある。演出家であり映画監督である監督から見た宮崎駿作品は、映像最高、演出と脚本最低、といったところであろうか。初期の作品、「ナウシカ」「ラピュタ」あたりまでは比較的、宮崎駿の作家性で売り出そうとした作品ではないのでその矛盾はそうそう浮き出てこないが、宮崎駿とスタジオジブリがビッグネームになるに従い、良くも悪くもプロデューサー鈴木敏夫のコントロールが効かなくなっていく。作家性で売り出したゆえに、その作家性が前面に出ると、映画としては稚拙になっていく。それでも映画が売れたのは、映像の美麗さとブランドの確立ゆえ、というのが押井守監督の分析だ。こうした視点の批評を、ジブリのもう一人のビッグネームである高畑勲と、その他監督作品にも重ねていく。
本書が面白いのは、作家性の発現を批判しているのに、押井守監督自身もその作家性の発現に無自覚なところだ。いや、本人の中では整理がついているらしいのだが、監督に心酔してるファンでさえ「それは違うだろ」と感じてしまう。結果的に、自分の作品とも向き合っている監督のジブリ批評、アニメファンなら必読だ。
初版2017/10 東京ニュース通信社
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