書評<永遠のPL学園~六〇年目のゲームセット>
高校野球のファンや関係者ならずとも、高校野球の強豪としてPL学園を知らぬものはいないだろう。しかしながら、PL学園野球部は、昨年から休部しており、その栄光は過去の彼方となった。部内での暴力事件が直接の引き金ではあるが、背後には宗教団体のPL教団の動きも大きな要因となっていた。高校野球の象徴であったPL学園野球部の興亡をさぐる。
旧態依然の体育会系の象徴でもある高校野球。指導者のシゴキ、部員の激しい上下関係など”時代遅れ”の象徴であり、度重なる暴力事件を起こしたPL学園野球部はその典型であった。プロ野球関係者など、それが人生のプラスに働いた人間には美しい思い出であろうが、そうでなかった人間の方が多いのではないか。それが時代の変化により、表舞台に頻出するようになってしまった。それが野球部の実質的廃部の一因には違いない。
だが、興味深いのは、本書のもう一つの主題である、PL教団そのものの興亡の実態であろう。カリスマで信者を集めた教祖が亡くなる。貧しく、頼るところが宗教であることも多かった時代から、経済成長し変わる社会。PL教団の象徴たる野球部が、教団の衰退とともに弱体化していくのもむべかるかな、である。せまい世界に閉じこもっていく宗教団体に、外に開かれた”宣伝媒体”はもはや必要なくなったのだ。
日本のスポーツの位置づけが変わる中で、旧態依然の体制を変えることが出来なかった野球部と、時代にそぐわなくなった宗教団体。弱者を救うはずの団体が、自分たちにそぐわないものを排除していく団体に変貌、そして衰亡していく姿が描かれた、すぐれたノンフィクションである。
初版2017/03 小学館/kindle版
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