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2017.12.19

書評<共食いの博物誌——動物から人間まで>

「カニバリズム」は人類にとって大きなタブーの一つであり、ゆえに怖いもの見たさで多くの映画やドラマで恐怖の対象として取り上げられている。生物界全体としても、「生殖中にメスがオスを食べる」といった印象的な事象のせいで、特別な生態として捉えられがちだ。本書はまず昆虫や哺乳類の共食いの事例や、俗説とその真実を紹介し、後半で人類のカニバリズムの実例とタブーとされているわけを明かしていく。

生物に多少なりとも興味があれば、共食いは特殊なものではなく、食糧不足になればどんな動物にも発生する現象であるという事実に納得できるはずだ。「自分の遺伝子を継いでいく」という、セントラルドグマさえ理解していれば、特異な共食いの事例も理解できる。
問題は文化、文明を持つ人類だ。人類ももちろん「生存本能」に従って共食いをする。だが、カニバリズムへの嫌悪は主にキリスト教文化の影響が強い。中世の侵略者たちは「未開の人々」を支配するために利用してきた。儀式的なカニバリズムは普遍的といってもいいぐらいの事象なのに、カニバリズムを「自分たちとは違う」と差別と支配の象徴としてきたのである。
本書は最後に、共食いが実際に疾病を流行させた事例を紹介する。BSE、つまり狂牛病だ。草食動物である牛や羊に肉骨粉を食べさせる飼育法は、プリオン病原体を拡散させた。共食いは自然の摂理でも、それを不自然に超えていくと、歪みが発生する。人類と共食いの関係の不自然さを科学的、歴史的にレポートした好著だ。

初版2017/11 太田出版/ソフトカバー

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