書評<絶滅危惧種ビジネス:量産される高級観賞魚「アロワナ」の闇>
アクアリウムという趣味は、大金が絡むビジネスである。その中でもアジアアロワナの希少種は富裕層の投機の対象にもなっており、東南アジアでは養殖も盛んである。著者は3年半かけて世界15カ国の「現場」をめぐり、最初は熱狂的なコレクターや世界屈指の養殖業者を訪ね、そのビジネスの実態を取材。そうした中で探検家ハイコ・ブレハや魚類学者の出会いから、ボルネオの奥地やミャンマーの交戦地帯まで、希少な野生のアジアアロワナを探索に足を向けることとなる。
熱帯魚ビジネスの中でも、高価な部類に入るアジアアロワナの取引と野生種の実態を探りながら、ワシントン条約や新種ハンターといった部外者が知りえない世界を探求していくノンフィクション。美しい淡水魚とは思うが、その価値が分からない著者が野生種を追いかけていく様こそ、何かに取りつかれたコレクターそのものといえる。絶滅危惧種ビジネス、フィッシュマフィアなどと物騒な言葉が並ぶが、それゆえに知的な興味がそそり、どんどんその世界が知りたくなる。著者は読者のそうした興味を共有しつつ、気まぐれな探検家と奥地に分け入る。遺伝子組み換えによるアロワナの品種改良ビジネスまで登場しようとする状況で、野生種の価値とは何か、ワシントン条約とは何か、そうしたことを読者に問いかける。単なる裏ビジネスの告発ではない、そんな一冊である。
初版2018/01 原書房/ハードカバー
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