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2018.07.01

書評<チャヴ 弱者を敵視する社会>

イギリスの貧しい労働者は<チャヴ>と俗称される。公共住宅に住み、無職か不安定な職に就き、無責任に妊娠し、わずかな収入は酒か麻薬に費やす。こうしたイギリスの貧困層はどのように形作られ、イギリスの社会にどのような扱いを受けているのか?本書はサッシャー政権以後の政策を軸に、イギリスの新たな階級社会の実態を描き出す。

サッチャー政権が誕生した1979年、炭鉱や自動車産業、造船業といった製造業は国際的競争に敗れ、イギリスは没落の一途を辿っていた。サッチャーは大胆な改革を打ち出し、ロンドンのシティに代表される金融業を中心とする産業構造の変革をはかった。だがその政策は多くの労働者の失業を招き、公共住宅で生活保護を受けて暮らす貧困層を多く生み出す。
イギリスの歴代政権は、そうした貧困層への対策を積極的に行ってこなかった。イギリスにいまや「階級」は存在せず、自助努力によって中産階級に上昇できるはずだ、というのが根拠である。ようするに「やる気」の問題だと。
だがしかし、実態は違う。貧困層は無職あるいは不安定な収入しかないサービス業に従事し、子供たちに中産階級以上の人間と同等の教育を与えられない。よく言われる「貧困の連鎖」である。
ここまではグローバル化が進展し、産業構造が変わった先進国によくある話ともいえる。イギリス独特の状況というのは、彼ら貧困層を攻撃することが許されていることだ。上流階級出身のマスコミは労働者階級の実態を知ろうともせず、わずかな事例を基に労働者階級の人間性と意欲のなさを問う。政治家も計画性もなく妊娠する女性たちの人格を攻撃する。弱者との分断が積極的に行われているのだ。政府にとって「救うべき弱者」ではないのだ。
そして労働者階級は、不満を中産階級や政治家に向けるのではなく、移民にぶつける。弱者の敵は弱者、というわけだ。
翻って我が日本。製造業はなんだかんだ言いながら持ちこたえているが、中国など新興国の台頭により、それがいつまで続くか分からない。マスコミは一応弱者の味方のふりをするが、その偏狭なポリティカルコレクトネスが、逆に反感を買っている。
社会を論じる際、ネットや本でよく「欧米では~」という言質を目にするが、本書はリベラルな社会であるはずの欧米の実態を暴いている。ここにいたらぬようにするにはどうすべきか、そのヒントも本書にはあるので、ぜひ政治家にも読んでほしい本である。

初版2017/07 海と月社/ソフトカバー

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