書評<新薬の狩人たち>
人類は”知恵”を持ち始めたその初期から、様々な薬を探求し続けている。寄生虫除けの植物の根から、現代のバイオ薬品まで、研究の進捗と停滞を繰り返しながらも、人々は人間にとって致命傷となる感染症や病気に効く薬を探し当ててきた。本書は創薬に関わる研究を続けている著者が、新薬の探求をまとめた年代記である。
本書はギャンブラーであり、ハンターである新薬の探求者たちの歴史をまとめたノンフィクションだ。それは人々の身近にある植物からはじまり、オイルや染料の研究から派生した新薬の開発、人間の益となる土壌細菌の発見やほ乳類に由来する特効薬。新薬の探求の現場の移り変わりと、それにかかわる人々の冒険と苦悩の歴史は人類の近代史とも重なっており、その関係が非常に興味深い。単に優秀な医師と科学者がいるだけでは研究が前に進まず、社会運動家とそのパトロンが必要だったピルなどは、まさに現代史で教えるべき事例だ。
それと同時に本書は新薬の探求のリスクにも言及する。「適量なら薬、過剰摂取は毒」といわれるように、薬には必ず副作用がある。副作用を避けるには膨大な試験が必要であり、ゆえに新薬は非常に高価である。薬品業界は暴利を貪っていると批判されがちだが、それならば、過剰ともいえる企業合併による業界再編は必要あるまい。新薬の探求はグローバルカンパニーにとっても巨大なリスクなのだ。
本書は素人にも薬学の歴史とその溢れるエピソードに触れることが出来る、必読のノンフィクションだ。
初版2018/06 早川書房/ハードカバー
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