書評<東欧サッカークロニクル>
著者は東欧(クロアチア、後にリトアニア)の現地に居をおくサッカージャーナリスト。それゆえ、現地のナマの情報に触れる機会も多く、サポーターとの距離も近い。その著者が、決してクリーンとはいえない東欧サッカーの現場を渡り歩き、リポートしてきたコラムをまとめたものが本書である。
1989年末の東欧革命以後、バルカン半島におけるユーゴスラビア連邦の崩壊はじめ、そこに住む人々は過酷な時間を過ごしてきた。それはサッカー界も変わらない。サッカーに対して熱狂的な国民性ゆえ、それが頻繁に政治的に利用される旧ユーゴスラビア諸国。大国の論理に翻弄される民族と小国家たち。サッカーが国におけるナンバーワンスポーツではないゆえ、経済的に困窮する小さなクラブ。いまや巨大ビジネスの場と化した西欧のビッグクラブとリーグのすぐ隣に、まったく異質な世界が広がっているのだ。
民族の自立という、民主主義の根本に従って小国家が乱立する東欧の現実をサッカーを通して知ることができる一冊である。ただし、「クロアチア人の国民性」といったステレオタイプな著者の言質が少し気になるところである。
初版2018/05 カンゼン/ソフトカバー
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