書評<【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派>
1990年代以降、次々に不安定化していく中東諸国。その原因として、”宗派対立”を中心にもってくる論者は多い。いわゆるシーア派とスンニ派の対立である。人々が妥協することが出来ない宗教派閥を中東の混乱の根本要因の1つとして据えると、確かに複雑な中東情勢を「理解したつもり」になれる。果たしてそうなのか?気鋭の中東学者が、中東の混迷の要因として宗派対立を解説する。
著者の「スンニ派とシーア派は宗派として対立しているわけではない。なぜなら、どちらの宗派とも相手を改宗しようとしているわけではないからである(要約)。」との一文が、我々の大いなる誤解を解いてくれる。経済、氏族、領土、資源など様々な利害対立をまとめているのがスンニ派とシーア派であるだけなのだ。もっといえば、イランとサウジアラビアという大国の中東における覇権争いが、「宗派」の名を借りているともいえるのだ。民主化や世俗化の度合いとか、イスラム教の原典への回帰など”イスラム教の論理”で語られがちな中東情勢の理解の幅を拡げてくれるテキスト的な一冊である。
初版2018/05 新潮社/新潮新書
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