書評<死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相>
1959年、フルシチョフ政権下のソ連・ウラル山脈で大規模かつ謎に包まれた遭難事故が発生した。深い積雪の山中で、登山チームの9名がベースのテントを離れて靴も履かず、薄着で死亡しているのが発見されたのだ。しかも、テントは整理整頓されており、ガスコンロは湯を沸かそうと準備されたままであった。今もオカルト案件として語り継がれる事件を、カリフォルニア在住のノンフィクション作家が現地に赴き、事故と同じ状況下での登山を試みることにより、多くの謎に挑んでいく。
本書は3つの軸を持って、事故の再現と謎解きに挑む。2つは過去の時間軸。登山チームと事故後の捜索チームの動向を詳細な記録から再現していく。1つは著者が現在の時間軸で事件解明を試みる。まるで登山チームのそばで彼らを見ているような錯覚と、著者の視点で謎多き国で現地捜査をしているかのような錯覚に陥り、本書の内容にみるみる引き込まれる。2つの時間軸、1959年と2009年の時間軸がそのまま、ソ連とロシアの状況や空気感を浮き彫りにしているのも興味深い。
読後、事故当時の状況と発生原因の解明そのものはあまり重要でないと感じるほど、様々な要素が詰まった1冊である。
初版2018/08 河出書房新社./ハードカバー
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