書評<牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って>
前世紀から、象牙を狙ったアフリカゾウの密猟は環境保護における主要な問題の1つだった。危機感が高まったのは、中国が急速な経済発展を遂げた1990年代後半以降。中国大陸における象牙の爆発的な需要の高まりから密猟は増加し、アフリカゾウの絶滅が危惧されるまでになった。アフリカ東部、タンザニアやケニアといったアフリカゾウの生息地で何が起きているのか?新聞社特派員の記者がその構造の複雑さにせまる。
アフリカは近年、急速な経済発展を遂げているとされているが、それは都市部にとどまり、権力を持つ者と持たざる者の絶望的な貧富の差が生じているのが現状だ。そうした現状が、アフリカゾウの絶滅危惧に密接につながっている。貧者はサバンナで残酷なかたちでゾウを狩る。象牙を買い付ける中国人たちは実質的に駐アフリカ大使館を後ろ盾にしており、アフリカの行政関係者、警察関係者に賄賂を渡し、罪に問われることは滅多にない。中国マネーを軸にして、象牙の密猟がガッチリ構造化されているのだ。アフリカの権力者たちの腐敗はもはや改革不能であり、中国人たちはすでにアフリカ大陸の腐敗の一員と化している現実に本書はせまっていく。
衝撃的な事実とはいえ、残念ながら著者はそのアフリカの深淵の入り口にしか見ることが出来ていない。センセーショナルではあるが、事実に対する裏付けも、単行本としての文量も物足りない。それでも、国際会議で見られる偽善も含めて、漠然とテレビや新聞を読んでいるだけでは分からない腐敗の構造にせまったノンフィクションとはいえるだろう。
初版2019/05 小学館/ハードカバー
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