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2019.06.22

書評<生命の歴史は繰り返すのか?ー進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む>

ダーウィンの進化論は、現代科学のセントラルドグマの1つだ。しかし、進化論は科学の大前提である「観察と実験による再現性」のうち、観察でしかそれを証明出来ていなかった。生物の進化とは、長い時間をかけて起こるものであり、人間の寿命を前提にすれば「実験による再現」を観察できるとは考えられていなかったからだ。ところが近年、人為的な環境の変化に生物が短い時間で対応しつつあることが解明されつつあり、それを「実験」で証明するプロジェクトがいくつも行われている。本書はそうした大腸菌から魚まで、自然あるいは人工的な生物の隔離実験を紹介しつつ、実験により進化を証明する研究の最前線を紹介する。

 

進化論研究の大御所の一人であったスティーブン・J・グールドは、名作「ワンダフル・ライフ」で「進化のテープを巻き戻しても、同じ進化は再生できない」と看破した。進化とは環境変化によって”偶然”起こるものであり、ほんの小さな環境の変化であってもその生物の将来に及ぼす影響は絶大だからだ。当時は広く受け入れられたが、グールドの理論は既に古くなりつつある。生物は自然の淘汰圧に対し、従来の考えよりもすばやく反応するのだ。もちろん、環境に人為的な介入があってこそなのだが、本質的な議論に影響は及ぼさない。

本書でもう一つ、中心となる議論が「収斂進化」だ。例えば鳥とコウモリの翼の成り立ちはまったく違うが、空を飛ぶ仕組みとして、同じ形態を選んだ。このような例は自然界に無数に見ることが出来る。設定された環境の中で生物は形態的に収斂していくということが、いわゆるDNA解析を利用して証明されつつある。「進化のテープ」は「再生できる」のである。

かつて「ワンダフル・ライフ」に心躍らせたものとしては、グールドの唱える進化論の否定には少し複雑な思いもある。だが、これが科学なのだ。

 

初版2019/06 科学同人/ソフトカバー

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