書評<昆虫食と文明―昆虫の新たな役割を考える>
アフリカや東アジアの人口増加により、世界的な食糧不足が懸念される昨今、昆虫食が注目を集めている。現在でもアフリカや東南アジアで昆虫食は日常となっているが、少なくともヨーロッパや北米では”ゲテモノ”だ。日本でも一部地域で常食されているが、一般的ではない。本書は昆虫食について多面的に論じ、それが世界に定着するにはどうすればいいか?考察していく。
もはや亜熱帯地方である日本でも、昆虫は無限に増えるものという印象は強い。食糧問題の解決に、昆虫が注目されるのは当然の帰結といえる。しかしながら、カロリーや栄養素において、現在の我々の日常食に匹敵する昆虫というのは案外少ないし、寄生虫や病原菌を避けるには、養殖した昆虫を食用にするのが妥当である。そう考えると、案外と昆虫食というのはコストパフォーマンスに合わなかったりするのだ。
また、文化的な問題もある。欧州では昆虫食は一般的なものとはほど遠いし、一部の好事家以外には見向きもされない。宗教的な側面も考慮しなければならない。そうしたタブーを突破するほどには、我々は追い詰められてはいないのだ。
本書ではそうした”昆虫食の有用性”と”昆虫食への抵抗”を同時に論じ、現実的な昆虫食を模索する。単純に昆虫食を礼賛するのではなくそれなりの文明を築いてきた我々と、昆虫との良好な関係の落としどころはどこにあるのかを探しているのだ。昆虫食とともに、昆虫と人間の多面的な関係を知ることができるポピュラーサイエンスである
初版2019/06 築地書館
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