書評<無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争>
軍事関係のニュースで”ドローン”という単語を聞かない日はない。それほどに、無人兵器は一般的になってきた。ドローンの開発は、従来の偵察・観測・警戒といった直接攻撃に関わらないものから、ミサイルやPGMを搭載し、人的・物的損害を与えるものに移行してきている。SF映画に登場する”無人の兵団”の時代がすぐ近くまできているかも知れないのだ。本書は主にアメリカのDARPA(先進兵器開発局)といった公的機関や軍関係者、政府の政策に影響を与えるシンクタンクの専門家など広く意見を集め、その可能性と倫理的問題を論じていく。
ドローンを巡る開発はますます激しさを増している。先進各国はスウォーム(群飛行)といった困難な技術にトライする一方で、中東諸国の反政府組織のように、国家ではない組織もドローンを使用した戦術の開発に余念がない。本書はそうした無人兵器を巡る問題の中で、特に”兵器の自律製”に着目する。ドローンが注目されるようになったのはここ10数年のことだが、実のところ、それらは”高度なリモコン兵器”であり、武器の使用決定については、その決定思考に関するループ(OODAと呼ばれる)に常に人間が中心にいる。従来兵器にしても、例えばイージス・システムもいわば”全自動モード”を選択できるが、そこにはキル・スイッチが存在する。しかしながら、未来の戦場を予測した場合、その電波環境は著しく悪化しており、リモートコントロールは効かない状況の出現は必須である。ゆえに、無人兵器は自律に向かうはずだ。現にそうした研究も進んでいるが、本書に登場する研究者たちは、完全な自律兵器への発展に否定的だ。そこには苦い過去の教訓があり、戦場の混乱が予測されるからだ。先進兵器開発を称賛する市民、兵器を忌避する市民両方が期待あるいは危惧するほど、”無人の兵団”の開発は進んでいないし、進めるつもりもないのが、アメリカの現状だ。
しかしながら、そうした倫理的な問題を突破する政府あるいは非政府組織は必ず現れるはずであり、それに備えてDARPAは自律兵器の研究を続けている。分水嶺となるのは、いつ、どこで起こる戦闘か?我々は慎重に観察していく必要がある。
初版2019/07 早川書房/Kindle版
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