書評<狙撃手のゲーム>
アラバマで引退生活を送る伝説の狙撃手、ボブ・リー・スワガー。彼の元に、中年の女性がアドバイスを求めに来る。彼女の息子はイラク戦争で戦死したアメリカ海兵隊のスナイパーだったが、彼女は息子の戦死に謎を感じ、独自に調査を始める。中東、アフリカ、ヨーロッパ…彼女は傷つきながらも、調査を成し遂げ、息子を殺害した敵スナイパーを突き止める。スワガーは、彼女の情報をイスラエルのモサドに提供することを提案する。それが、途方もない”ゲーム”の始まりだった。
”スワガー・サーガ”の最新作は、まるで原点に戻ったような一人のスナイパーとの戦いであり、捜索である。FBIを引退したニック、モサドのエージェントらの助けを借り、神出鬼没のシリア出身スナイパーの探し出し、アメリカで実行されるであろう作戦の目標を突き止めようとする。完璧に見えた捜索網を突破する敵と、専門的な知識で追跡を続けるスワガーとエージェントたち。
だが本作で魅力的なのは、やはり事件をスワガーの元に持ち込む中年女性、ジャネット・マクダウェルだろう。息子を殺された彼女の執念はスワガーをして「途方もない勇気」と言わしめ、スワガーの命を救い、最後のクライマックスで犯人捜索のヒントをもたらす。遠慮がちでさえない50代女性のはずが、明晰な頭脳と行動力で読者を唸らせる。まさに主人公なみの活躍である。彼女は復讐を成し遂げたが、再登場を期待したい。
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