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2020.01.21

書評<鳥マニアックス>

地球上の動物の中で、とりわけ特徴的なのが鳥類だ。彼らはなんといっても大気圏内を飛行し、水中と地上を行き来し、夜間に飛行する種もいれば長距離を飛行し渡りをするものもいる。著者は本書で鳥類のそれらのメカニズムを、物理的な解析とオタク的なマニアックな知識を比喩に使うことによって、とっつきやすく、なおかつディープに解説していく。

例えば、そもそも鳥はどうやって揚力を得ているのか?鳥の羽が航空機でいうところの翼断面をしているのは確かだが、では推進力や舵面はどう確保しているのか?映像解析すると、鳥の羽ばたきと飛行は、固定翼機というよりローターをアクチュエータ−で動かすヘリコプターに近い。これは本書の第1章の解説だが、もうこれだけで抜群に面白い。本書は著者の本業である鳥類の研究と、趣味であるミリタリーやアニメの要素を組み合わせて、鳥類の驚くべき身体的な特徴を解説していく。生物学は意外と学術的な解説だけでは難解だが、オタクが浅く理解している物理学の基礎を持ってすれば、理解が何倍も理解が早くなる。オタクにとって鳥類がもっと身近になる、そんな一冊だ。

 

初版2019/11    カンゼン/kindle版

2020.01.20

書評<反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー>

我々は人類の歴史を一直線に考えがちだ。特に人類文明の発展初期については「狩猟採集生活⇒耕作・農業の発達⇒国の誕生」という流れが常識とされている。しかしながら近年、こうした定説が否定されつつある。特定作物、特に穀物の栽培は非常に重労働であり、そのうえ王による徴税があったのでは、農民たちはたまったものではない。それでは、実際には歴史はどう刻まれたのか?メソポタミアの沖積層の調査の結果を中心に、歴史学者たちの最新の研究を踏まえ、著者が大胆な仮説を唱える。

人類の居住域の拡大、文明の発達には集団による穀物の耕作は必須のものであったことは事実である。だが、歴史はそう単純なものではない。狩猟採集生活あるいは遊牧は不安定な生活だと考えがちだが、季節に合わせた小集団による移動生活は単一の穀物に頼るより、栄養バランスが取れていた。それに、大規模集団による耕作生活はしばしば感染症の大規模な流行を招き、コミュニティを破滅に追い込んだ。これは王家や国家が成立した後も続いたことは事実だ。”人類初の国家成立”は紀元前に遡るが、メソポタミアに限っても、その歴史は途絶えがちで”暗黒の時間”が存在するのだ。このことは文明の発展初期において、人類が柔軟に狩猟採集生活と耕作生活を行き来していることの証左となるだろう。本書はこうした事実と研究結果のレポートを積み重ね、新たな歴史の姿を紹介している。

皮肉な人は「我々はコメ・コムギとネコの奴隷だ」と言う。人類は自分たちに有利なようにこれらを品種改良しているつもりが、実は人間のほうが穀物とネコを世話するように誘導されているのだというのだ。本書を読むと、穀物についてはある意味で正しいと感じざるをえない。かように、穀物主体の農業生活への移行は謎が多く、本書はその理解の一助となるだろう。

初版2019/12   みすず書房/kindle版

2020.01.19

F-8P FrenchNavySpecial Completed

アカデミー1/72チャンス・ボートF-8Pクルーセイダー、完成しました。

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F-8Pクルーセイダーは1950年代半ばに開発された艦上戦闘機。安全な着艦のためツー・ポジションと呼ばれる主翼取り付け角可変機構を採用が目を引きますが、翼端切り落としデルタ翼と主翼より下に位置するスタビレーターや一種のショックコーンになるレドームとエアインテークの位置関係など、多くの空力的な特徴も備えており、それは本気の高速性能と機動性能の良さに貢献。ベトナム戦争では”ラスト・ガンファイター”と呼ばれました。

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キットはアカデミーの限定版キットをストレート工作。シートにファインモールドのシートベルトを加えたくらいです。ディテールおよびスジ彫りは非常にシャープで、1/72クルーセイダーのキットとしては個人的には決定版だと思います。コクピットや脚収納庫を胴体パーツ貼り合わせの前に入れ込むので、すり合わせだけは慎重にすれば、3日で完成できます。今回はフランス海軍に採用された機体、特に最終形態となっており、アンテナ類の追加がありますが、説明書の指示どおりでほぼ間違いない機体になります。ウェポンについては悩みましたが、記念塗装機ということで胴体脇のパイロンは無しで仕上げてます。

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塗装は1999年のラストクルーズの記念塗装を再現。全体はクレオスC366インターミディエイトブルー(WWⅡアメリカ海軍機特色)を吹付け。フシギとピタリと合うブルーグレーです。ガルグレーでないクルーセイダーは非常に新鮮です。1964年から1999年まで現役にあった本機、フランス海軍の後継機の都合もあったのでしょうが、扱いやすく、優秀な機体だったのは間違いないところでしょう。

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個人的には”コピーメーカー”との印象があったアカデミーの製品が、このキットにより認識がガラッと変わったことをよく覚えています。市中の在庫が薄めなので、見つけたらキープしとくことを強く推奨するキットです。

2020.01.11

Buccaneer S.2C Completed

エアフィックス1/72ブラックバーン・バッカニアS.2C、完成しました。

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ブラックバーン・バッカニアは1960年代に開発されたイギリス海軍の艦載攻撃機。低空侵攻核攻撃を主任務としており、胴体内に爆弾倉を持つなど特徴的な外観をしています。イギリス海軍最後の通常空母アークロイヤルの搭載機であり、陸に上がった後の最後の実戦任務は湾岸戦争でのLGBの誘導でした。

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キットはエアフィックス2019年末の新商品。主翼折りたたみ、エアブレーキ開閉などを選択できるなど、空母甲板上の形態を再現できるフルアクションキット。同じラインのブリティッシュファントムは、同じく主翼折りたたみを再現するためにディフォルメ過多でしたが、このキットは非常にバランスが取れており、作業時間はかなり短縮できます。

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塗装は空母アークロイヤル搭載の809SQを再現。全体にクレオスC333エクストラダークシーグレーを明るめにして吹き付け。ハイライトも入れたのですが、あまり目立ちませんね。

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1/72バッカニアのインジェクションキットはいにしえのマッチボックスのみで、自分のようなスキル無しではとても今どきの完成品にもってくことは不可能でした。そんななか、まさに待ち望んだキット。その出来は期待にたがわぬものでした。バリエーション展開に期待です。

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2020.01.04

書評<異世界誕生 2006>


 


何度目かのライトノベルブームが到来し、後に定番となる「異世界転生」のストーリーがボチボチ見られるようになった2006年。ある一人のオタク、タカシが交通事故で死んだ。彼を溺愛してきた母親フミエは、HDDに残された小説のプロットを元に拙いタッチで小説を書き始める。一方で、そんな母親がたまらなく嫌な妹、チカはタカシをはねた事故当事者の片山に相談する。混沌とした家族関係、人間関係は解きほぐれるのか?

本書は"救いの物語"である。オーバーではない。息子の喪失から奇異な方法で逃れようとする母親。自分自身で賢いと思っていても、まだまだ子供である妹。罪の意識にさいなまれる交通事故加害者。そんな彼彼女らが"クソオブクソ"であるプロットのノベルを巡って絡み合い、そしてネットの助けも借りてある種の救いを得る。ネットのレビューでは"稚拙"と批判されてる劇中劇だが、稚拙であるからこそ人間模様が巡るのだ。爽やかな読後感のライトノベルである。


初版2019/08  講談社/Kindle版

2020.01.03

書評<未完の計画機3>


 


古今東西の未完の航空機たちの物語を、設計者や経営者まで遡って紹介するコラム集の第3弾。今回はアメリカのレンズ状の宇宙船やソ連の地球軌道往還船など宇宙関係の航空機も多く登場する。

昨今の航空機ははシルエットは多少違っていても、"設計のルール"は確定しており、どうしても似たような印象が多い。また、大手の老舗企業は例え政府請け負いの仕事でも、リスクを背負って開発することは少なくなっている。おかげで本書で取り上げられている"百花繚乱"ともいえる驚くような外形を持つ航空機は少ない。
だが同時に、いわゆるスタートアップ企業は続々と登場し、新規技術開発も盛んだ。モノになるかはどうかは別として、多くの"予想イラスト"が描かれる時代が到来している。2010年代や2020年代は後年、本書のような特集にどのように総括されるのだろうか。そんなことを考えさせられる一冊である。

初版2019/12    イカロス出版/大型本

2020.01.02

書評<人喰い――ロックフェラー失踪事件>


 


1961年、オランダ領であったニューギニアのジャングル奥地で、ロックフェラー家の御曹司、マイケル·ロックフェラーが行方不明となった。行方不明のまま、葬儀なども営まれたが、当時より「現地民に殺され、人喰いの犠牲になった」との噂は絶えなかった。げんにオランダ人の牧師たちは現地民の証言を取っていたのだ。事件から50年後、著者は真実を追うため、当時の記憶をまだ残す人物がいるかも知れない集落へ潜入する。

自分はこの事件のことを知らなかったが、「暗黒のジャングルで未開の地の原住民にロックフェラーの息子が喰われた」との話はオカルト界では有名なエピソードであったそうだ。著者は当時の宣教師たちが残した資料を調査し、マイケルの"死亡原因"を確信しながらも、いまだに到達するだけでも苦難が待ち受けるジャングルに向かう。そもそも、大富豪の後継者の一人であるマイケルがなぜ、ニューギニアに赴かねばならなかったのか?当時のニューギニアはどんな状況だったのか?マイケルを喰ったと推測される「殺人と狩猟と精霊とともに生きる」民族、アスマットとはどんな部族だったのか?著者が事件を追ううちに、マイケルがジャングルで犠牲になったのは当然かとも思えてくる。それは著者が現地に入り、ジャングルの実態をリアルに描いたからこそだ。この地球上に、都市住民にはまだまだまだ知らない世界と文化が生きているのだ。


初版2019/03    亜紀書房/Kindle版

2020.01.01

書評<大英帝国は大食らい: イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界各地の食事をつくりあげたか


 

1500年代から始まる大航海時代以降、イングランドは世界の各地を植民地化し、大英帝国を築いた。それは同時に、食のグローバル化の始まりでもあった。貴族と小作人たちのアイルランド入植やカナダ沖のタラ漁から始まった英国の植民地と食の関係を、北アメリカ大陸、カリブ諸島、アフリカ大陸、アジアと拡大していく入植地の順に考察していく。

世界各地を植民地化し、搾取の構造を作り上げた大英帝国。本書を読むと、実際にはそうした教科書的な解釈よりもずっと大きな影響を世界にもたらしていることが分かる。世界各地をプランテーション化し、単一の商品作物の生産体制を作り上げ、大英帝国の誇る帆船艦隊の流通網に頼らざるをえない体制を築いたこと。アメリカ大陸からアフリカにトウモロコシをもたらし、現地民の炭水化物供給源を変えたこと。砂糖と紅茶葉の過剰生産は、植民地どころか地元イギリス国民の労働者のカロリー供給源を貧しいものにしたこと。こうした事例は本書の内容のほんの一部に過ぎない。次々と拡がる植民地事情が複雑に絡み合って、現在の世界規模の食料貿易の原型を作り上げたのだ。グレートブリテンの凶悪さと強大さの歴史を、食卓から学べる貴重な一冊である。

初版2019/03    河出書房新社/ハードカバー

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