書評<大英帝国は大食らい: イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界各地の食事をつくりあげたか
1500年代から始まる大航海時代以降、イングランドは世界の各地を植民地化し、大英帝国を築いた。それは同時に、食のグローバル化の始まりでもあった。貴族と小作人たちのアイルランド入植やカナダ沖のタラ漁から始まった英国の植民地と食の関係を、北アメリカ大陸、カリブ諸島、アフリカ大陸、アジアと拡大していく入植地の順に考察していく。
世界各地を植民地化し、搾取の構造を作り上げた大英帝国。本書を読むと、実際にはそうした教科書的な解釈よりもずっと大きな影響を世界にもたらしていることが分かる。世界各地をプランテーション化し、単一の商品作物の生産体制を作り上げ、大英帝国の誇る帆船艦隊の流通網に頼らざるをえない体制を築いたこと。アメリカ大陸からアフリカにトウモロコシをもたらし、現地民の炭水化物供給源を変えたこと。砂糖と紅茶葉の過剰生産は、植民地どころか地元イギリス国民の労働者のカロリー供給源を貧しいものにしたこと。こうした事例は本書の内容のほんの一部に過ぎない。次々と拡がる植民地事情が複雑に絡み合って、現在の世界規模の食料貿易の原型を作り上げたのだ。グレートブリテンの凶悪さと強大さの歴史を、食卓から学べる貴重な一冊である。
初版2019/03 河出書房新社/ハードカバー
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