書評<人喰い――ロックフェラー失踪事件>
1961年、オランダ領であったニューギニアのジャングル奥地で、ロックフェラー家の御曹司、マイケル·ロックフェラーが行方不明となった。行方不明のまま、葬儀なども営まれたが、当時より「現地民に殺され、人喰いの犠牲になった」との噂は絶えなかった。げんにオランダ人の牧師たちは現地民の証言を取っていたのだ。事件から50年後、著者は真実を追うため、当時の記憶をまだ残す人物がいるかも知れない集落へ潜入する。
自分はこの事件のことを知らなかったが、「暗黒のジャングルで未開の地の原住民にロックフェラーの息子が喰われた」との話はオカルト界では有名なエピソードであったそうだ。著者は当時の宣教師たちが残した資料を調査し、マイケルの"死亡原因"を確信しながらも、いまだに到達するだけでも苦難が待ち受けるジャングルに向かう。そもそも、大富豪の後継者の一人であるマイケルがなぜ、ニューギニアに赴かねばならなかったのか?当時のニューギニアはどんな状況だったのか?マイケルを喰ったと推測される「殺人と狩猟と精霊とともに生きる」民族、アスマットとはどんな部族だったのか?著者が事件を追ううちに、マイケルがジャングルで犠牲になったのは当然かとも思えてくる。それは著者が現地に入り、ジャングルの実態をリアルに描いたからこそだ。この地球上に、都市住民にはまだまだまだ知らない世界と文化が生きているのだ。
初版2019/03 亜紀書房/Kindle版
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