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2020.03.11

書評<一揆の原理>

一揆といえば、農民が鎌や竹槍を手に取り、集団で領主のもとに押し寄せたり、悪徳商人の蔵を打ち壊すイメージが強い。いわば虐げられた民の反乱だ。しかし、近年の資料の研究により、”権力者に立ち向かう弱者の集団”といったイメージが崩れつつある。本書は、そうした一揆の本質を解説していく。

本書で著者は「一揆を結ぶ」という言葉を多用する。一揆とは”武装蜂起”というよりも、”農民や僧侶たちの契約”が本来の意味であり、その契約に、例えば領主との年貢の交渉も含まれるのだ。いわゆる荘園の領主というと、過酷な年貢を課すイメージが強いが、農民たちが離散しては領主とて生活(たつき)の糧を失う。農民たちは一揆を結んでいわば”団体交渉”をし、領主と交渉する。また僧侶たちも、自分たちの利権を守ろうと交渉する。それに参加する人々の団結こそが一揆であると、著者は看破する。農民たちは領主に一方的に支配されているのではなく、一揆をとおして、いわば領主と駆け引きをしていたのである。もちろん、一揆の形態は多様だし、日本史の中世の長い歴史の中で徐々に変化していく。本書はそうした変化も、日本史全体の流れに合わせて紹介していく。

本書は著者の出版物で一貫してみられる「旧来の左翼的な歴史観の修正」の1冊となる。歴史は固定されるものではなく、研究で変化するものであると強く感じさせる一冊だ。

 

初版2015/12    筑摩書房/Kindle版

2020.03.10

書評<日本中世への招待>

中世の歴史好き、というクラスタのほとんどは、戦国時代や戦国武将を中心とした派手な合戦や政治的駆け引きを面白い、という人が多いだろう。自分もそうだ。しかし、当然ながら当時の庶民たちにも生活があり、現代とは少し違う形の家族、教育、生活があった。本書はそうした中世の”日常”を紹介する。

”中世の庶民の生活”にも歴史というものが当然ある。学校の日本史でしか学習したことがなく、ぼんやりとした知識しかない読者に、本書は日本の中世の世界観を教えてくれる。江戸時代に至るまでに、教育制度はどのような経緯をたどったのか?出産や葬式はどのように執り行われていたのか?旅行や娯楽はどのように行われていたのか?現在と同じ価値観と違う価値観が交錯する様は非常に興味深い。歴史の様々な面を知ることが出来る新書である。

 

初版2019/02    朝日新聞出版/朝日選書

2020.03.09

書評<独ソ戦 絶滅戦争の惨禍>

ヨーロッパでの第2次世界大戦のうち、独ソ戦、いわゆるドイツから見た東部戦線は、自国の利益目的とした通常戦争あるいは収奪戦争というよりも、ロシア人そのものを絶滅させるという意図を持った”絶滅戦争”であった。それは悪名高きナチス党やヒトラーその人に、全ての責任を負わせるべきものではない。国防軍もまた、その絶滅戦争に加担したのだ。本書は独ソ戦をその目的と戦線の動き、幹部たちの方針の変更といった大局に焦点を合わせ、絶滅戦争の惨禍を描き出す。

従来の歴史書、あるいは好事家向けの書物でも、独ソ戦が”地獄の戦場”であったことは詳細に語られている。本書の画期的なところはその戦争目的の変化という政治的な面と、ドイツ国防軍の”英雄神話”というべき軍事的な面を、最新研究によりひっくり返しながら、なおかつ独ソ戦をコンパクトにまとめたことであろう。石油という資源収奪という戦争目的からの逸脱。ドイツ国防軍の幹部はナチス党の方針には反してはおらず、”野蛮な戦闘行為”の決定に大いに関わっていたこと。ソ連は物量と欧米連合国の支援でドイツ軍を押し返したのではなく、優秀な作戦と兵器が手元に準備されていたこと。ミリオタの常識を覆すというにはオーバーだが、新事実を交えつつ、独ソ戦の大きな動きをまとめることに成功している。本書を頭に入れたうえで、各種書籍にあたれば、様々な発見があるだろう。

初版2019/07   岩波新書/Kindle版

2020.03.08

書評<未熟児を陳列した男:新生児医療の奇妙なはじまり>

20世紀初頭、現代医療の黎明期に、”興行師”であり”医者”であるドクター・クーニーが万国博覧会のある展示で注目を集めた。それは保育器に入った誕生時の体重が1000gにも満たない未熟児たちである。医療はまだ未熟児たちを助けるまでには発達しておらず、医師も親たちに平然と生まれたばかりの赤ん坊の運命を告げた時代に、未熟児たちの死亡率を下げ、また障害が残らないように育てるための保育器をクーニーは開発したのだ。しかし、中世から続く伝統的な医療を引きずった時代に、保育器はなかなか広まらなかった。また、それは金がかかるものであり、未熟児を扱う看護師の技術も高いものを要するため、一般市民に支払える額ではなかった。そこでクーニーは未熟児医療を”興行”とし、見世物としたのである。未熟児医療の先駆者であり、優生学が重視された時代に未熟児医療に情熱を注いだクーニーの数奇な物語を著者は追う。

 

19世紀末の現代科学の発達期、万博博覧会は科学技術の発達を披露する舞台であり、庶民の娯楽の1つであった。そうした舞台で、先端医療を見世物としたクーニー医師の功績は毀誉褒貶するものがあって当然である。しかし、クーニーの出自はともかくとして、その活動を追っていけば、そこには必ず”赤ちゃんへの愛”があった。それは彼の妻、そして”マダム”と呼ばれることを好んだ看護師も同様だ。クーニーらは頭の固い医師たちにまっこうから勝負を挑んだのだ。そして、優生学が隆盛するなかで、それに対抗する中で未熟児たちを救い続けたのである。

そしてこの伝記は、著者とクーニー医師に救われた未熟児たちの探索の物語でもある。怪しい興行師でもあったクーニーの足跡をたどるのは簡単ではないし、彼が救った子供たちももはや70代以上の高齢者たちだ。生存者の多くは高齢の女性だが、彼女らは自分たちの出自を面白がり、また誇りをもっていた。またクーニーが亡くなり、現代医学が隆盛した1970年代にも、彼を高く評価した小児科医が多数いたのだ。本書はそうしたエピソードを紡ぎ、見事にクーニーの数奇な人生を描き出している。

 

初版2020/02    原書房/ハードカバー

2020.03.03

EA-6B”VAQ-137 WORLD FAMOUS ROOKS”Completed

ハセガワ1/72グラマンEA-6Bプラウラー"VAQ-137 WORLD FAMOUS ROOKS"、完成しました。

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EA-6BプラウラーはA-6イントルーダーを改設計した電子戦専用機。空母航空団の中でECM(現在ではEWと表される)とSEAD(対空防御網制圧)を任務とする、現代航空戦には欠かせない機体です。前身のEA-6Aでは電子機器はワンオペレーターであり、その能力に限界があったため、EA-6Bでは前部胴体を延長して4シーターとし、電子機器も大幅な自動化をはかって能力を高めています。

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キットはハセガワ1/72を使用。このキットはハセガワの定番商品が凸彫りから凹彫りに切り替わる時期のキットで、スジ彫りではあるものの、リベット表現などはなく非常にあっさりしています。勘合もいいとは言い難いので、胴体部分や電子戦ポッドはストレートで済ませています。主翼はウルフパックの主翼折りたたみパーツを使用して、甲板上の駐機状態を再現。ウルフパックのアフターパーツはレジン製でディテールは精密なのですが、経年変化で縮んだのか、胴体主翼取り付け面とまったく合わず、プラ板の積層を挟んで強引に整形しています。その他、シートはディテールアップのためにこれもアイリスのシートに交換しています。要所要所をレジンに交換することにより、あっさりしたキットがわりと緻密に見えるようにしたつもりです。

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デカールはマイクロスケールデカールを使用して”VAQ-137 WORLD FAMOUS ROOKS”のハイビジ仕様を再現。上面ガルグレー、下面ホワイトのスタンダード塗装で、今回はマスキングテープで、塗装の境界をはっきりさせています。クリーム色のレドームが時代を感じていいですねえ。キャノピーはクリアーブラウンにクリアゴールドを少量混ぜて、電波を反射させる保護膜を再現。ハイビジ塗装ということで、ウェザリングは控えめです。

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前述したとおり、このキットはエアインテークやジェットノズルの奥行きがなかったり、ディテールが足りなかったりして、現在の基準でいうと不満があるモデラーさんもいるかもですが、出来上がってみればEA-6Bの特徴的なラインをよく捉えていると思います。

それと、今回はレジン製のアフターパーツに苦労しました。主翼折りたたみパーツは言うに及ばず、シートもF-14A用で代用しようとしましたが、入らないんですね、これが。プラモの設計とはかくも微妙なもの。仮組みの大切さをまた思い知りました。

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