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2020.03.09

書評<独ソ戦 絶滅戦争の惨禍>

ヨーロッパでの第2次世界大戦のうち、独ソ戦、いわゆるドイツから見た東部戦線は、自国の利益目的とした通常戦争あるいは収奪戦争というよりも、ロシア人そのものを絶滅させるという意図を持った”絶滅戦争”であった。それは悪名高きナチス党やヒトラーその人に、全ての責任を負わせるべきものではない。国防軍もまた、その絶滅戦争に加担したのだ。本書は独ソ戦をその目的と戦線の動き、幹部たちの方針の変更といった大局に焦点を合わせ、絶滅戦争の惨禍を描き出す。

従来の歴史書、あるいは好事家向けの書物でも、独ソ戦が”地獄の戦場”であったことは詳細に語られている。本書の画期的なところはその戦争目的の変化という政治的な面と、ドイツ国防軍の”英雄神話”というべき軍事的な面を、最新研究によりひっくり返しながら、なおかつ独ソ戦をコンパクトにまとめたことであろう。石油という資源収奪という戦争目的からの逸脱。ドイツ国防軍の幹部はナチス党の方針には反してはおらず、”野蛮な戦闘行為”の決定に大いに関わっていたこと。ソ連は物量と欧米連合国の支援でドイツ軍を押し返したのではなく、優秀な作戦と兵器が手元に準備されていたこと。ミリオタの常識を覆すというにはオーバーだが、新事実を交えつつ、独ソ戦の大きな動きをまとめることに成功している。本書を頭に入れたうえで、各種書籍にあたれば、様々な発見があるだろう。

初版2019/07   岩波新書/Kindle版

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