書評<壁の世界史-万里の長城からトランプの壁まで>
初版2020/03 中央公論新社/ハードカバー
人類が小規模な集団農業を始めて”コミュニティ”をつくった紀元前から、集団の内と外を隔てる壁は存在した。それは外敵から集団を守るためであり、またコミュニティの人間を外に逃亡させないためであった。人類のコミュニティが村から都市、国が発展し、今に至るまでも壁は築かれ続け、存在する。本書は万里の長城や中世パリの外壁、また東西ベルリンの壁や現代のパレスチナやアメリカとメキシコの国境地帯を著者が現地を訪ね、実際に観察し、壁の歴史を考察する。
著者はアメリカ人で、世界史といってもトランプ大統領が主な公約の1つとしたメキシコ国境の壁の構築をメインテーマとし、壁の歴史を探っていく。世界に設けられた壁は実際に人々を守るため、あるいは脱出を阻止するために本当に役に立ったのか?長い世界史の中で崩れ去った壁はどんなノスタルジーを感じさせるのか?そうしたことを検討したうえで、本題のメキシコ国境の壁建設問題に至る。もともと国境すらなく、国境ができた後に、トランプ大統領以前にもいくつも壁が実際にはつくられた土地に、彼が大きな国費を投じて壁を作る意味はあるのか?実際的な機能よりも、もはやオブジェともいえる壁の競争試作に、アメリカの企業がどのように関わっているのか。その視点は常にドライだ。著者は壁の建設を冷笑的に捉えているように自分には感じるが、時代は国家同士の分断は逆に未来に向かって深まっている。物理的な壁と心理的な壁、国境とはなにかを考えさせられる材料となる一冊である。
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