書評<アメリカ空軍史から見た F-22への道>
初版2020/03 パンダパブリッシング/ソフトカバー
アメリカ空軍の戦闘機の中で、特別な存在であるロッキード・マーチンF-22Aラプター。ステルスと超音速巡航能力を持ち、機動性能でも他を圧倒する。ラプターの開発・配備は、アメリカ空軍そのものの変化と、ある稀有な人物の奮闘の歴史でもある。本書はWEBでの連載を元に、アメリカ空軍の歴史とF-22Aラプターの誕生の経緯を辿っていく。
第2次世界大戦後、アメリカ空軍は陸軍より独立を果たした。当時は唯一の核兵器の運用能力を持つ戦略爆撃機こそがアメリカ空軍の象徴であり、対空戦と、地上支援などの任務は付属物に過ぎなかった。その組織もまた、戦略爆撃機を重んじる将軍たちが出世頭であった。そうして組み立てられたアメリカ空軍の組織、戦略、装備は、いつしか現実の世界情勢と、発生する戦争とかけ離れていくこととなる。本書の上巻はこうした空軍の歴史を辿る。この歴史を踏まえてこそ、今我々が見ているアメリカ空軍の姿と、ラプター誕生の歴史が理解できる。
そして下巻こそがラプターの開発につながるノンフィクションだ。いやむしろ、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐の伝記というべきものが語られる。偏屈なこの人物がOODAループ、エネルギー=マニューバ理論を生み出し、戦闘機開発の歴史を変えた。彼と、を彼を支えたエンジニアが、従来の戦略理論にしばられた空軍幹部たちとの暗闘ともいえるやり取りを展開する。この空軍内の争いこそが、本書の一番の読みどころだろう。
正直、航空機に対する評価は著者の強い思い込みが捻じ曲げている感じが否めないし、WEB連載独特の軽い文体に違和感を覚えなくもない。それでも、アメリカ空軍内部で繰り広げられていた”政争”の歴史を知ることができる入門書の役割を果たしているといえるだろう。
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