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2020.08.07

書評<牛疫――兵器化され、根絶されたウイルス>

初版2020/05    みすず書房/kindle版

 

牛は人類にとって大切な食糧家畜であり、また東南アジアなどでは重量物を扱うなど労役用の家畜でもある。それゆえ、牛の大量死を招くような感染症の克服は、人類そのものの感染症と同じくらい大事だ。牛にとっての感染症の1つ、牛疫は感染力も強く死亡率も高く、そのウイルスの根絶は人類全体の課題であった。本書は完全に根絶された数少ない感染症の一つとして、牛疫とその根絶の歴史を辿る。

牛疫は牛を家畜とする人類にとって身近な感染症であったが、人類全体の問題としてクローズアップされたのは、船舶の発展により、地球の大陸間貿易がはじまった中世以後のことである。インド、アフリカ、東南アジアと家畜を移動させるたび、牛疫は世界に拡散した。そして第2次大戦前夜、「敵国の経済を破壊するため、家畜や農作物に多大な被害を与える」生物兵器としても注目されることとなる。大規模なワクチン開発が始まったのはそのときだ。カナダとアメリカの国境にある大河の孤島に研究所は設置された。そのときには免疫の獲得の仕組みはすでに知られていたが、いかに大量のワクチンを生産するか、研究者たちは苦悩する。それは中国大陸で畜産の研究をしていた日本人も一緒で、本書には日本人研究者も多く登場する。

本書のメインテーマとなるのは二次大戦後設置された、国際食糧機関(FAO)を中心とした国際機関の活動による、地球上からの牛疫の根絶の過程である。大国の様々な思惑に翻弄されながらも、冷戦の只中にあって理想に燃える国際機関は、世界中の保健機関、畜産研究所などを奔走する。その過程でワクチンの大量生産の方法も見つかり、やがて牛疫は克服された。天然痘の根絶とともに、国際機関と国際協力の力を示したのだ。

翻って、COVID-19ウイルスが世界で猛威を奮って昨今、世界はWHO(世界保健機関)の旗の元に一致団結しているだろうか?国家はWHOを信頼し、行動しているだろうか?様々なことを考えさせられる歴史書である。

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