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2020.08.08

書評<白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」>

初版2020/05 中央公論新社/中公新書

アメリカで発生した、一件の警察官の暴力による死亡案件が世界を揺るがしている。人種差別問題だ。決して新しい問題ではないが、近年の人種間の経済的格差の拡大、アメリカ建国の歴史の再解釈、あるいはBLM運動とよばれるラジカルな社会運動とあいまって、一時は大規模な暴動にまで発展した。そうしたなかでクローズアップされた思想の一つが”白人ナショナリズム”だ。アメリカにおける白人人口減少問題に危機感を持ち、現在のアメリカ社会が抱える人種差別問題について、白人の優越を唱える。もちろん、それは現在では政治的に正しい思想ではなく、公職追放の憂き目にあったりする。しかし、白人ナショナリズムはトランプ大統領の登場も相まって、勢いを失っていない。本書はアメリカ社会の問題の分析を長年続けてきた筆者が、白人ナショナリズムを唱える団体や指導的な役割を果たす個人に接触し、その実態を明かす。

現在のアメリカ社会は、個人の心情の中で、建前と内心が葛藤する社会であると思う。”ポリティカル・コレクトネス”と呼ばれる政治的な正しさに基づいた発言が重視されるが、個人、あるいは社会はそれにうんざりしている。ゆえに、白人ナショナリズムは消えない。かつてのKKKのような過激な動きは抑えられているものの、裕福な白人たちは献金で政治家を動かし、政治家は社会的な問題にうんざりした貧困層の白人に”アメリカ社会の正しさとは何か”を訴える。本質は絶望的かつ固定化・階層化された社会構造にあるはずなのに、動くのは”キャンセル・カルチャー”や”文化の盗用”に代表される、表面的なことでしかない。何もこれはアメリカだけではなく、移民問題で揺れるヨーロッパ諸国も同様だ。ゆえに彼らは連帯する。ヨーロッパでは、保守的なキリスト教的価値観を訴える政党が与党になる国も生まれつつあるのだ。本書はそうした世界の動きの”源泉の一部”にせまる著作である。

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