書評<壊れた世界の者たちよ>
初版2020/07 ハーパーBOOKS/Kindle版
メキシコの苛烈な麻薬組織を巡る犯罪物語や、ニューヨークの汚職警官の戦いを描いてきた著者が放つ短編集。”アートケラーの物語”につながる国境警備に携わる人々の救いのない物語、あるいはアメリカ西海岸の個性的かつ有能な窃盗団と警官の駆け引きなど、珠玉の物語が詰め込まれている。
刹那と呼ぶにはあまりに利己的で過激に見える、犯罪者と警官の物語。あるいはどこかユーモアとペーソス溢れる、ユニークな物語。その両方を精緻な筆致で描けるのがドン・ウィンズロウの魅力だと再発見されられる短編集。南部の国境からサーファーたちのカリフォルニア海岸、ニューヨークの摩天楼を舞台に、”ハッピー・エンド”はわずかしかなく、結果的に救われない物語が展開される。まともな神経をしていては、生き抜くことすら難しいアメリカ社会。だが、救いのない物語の中でも、信念に突き動かされる主人公たちにどうしても感情移入してしまう。そえが悪でも、正義でもだ。次作が待ちきれない作家の一人である。
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