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2020.11.09

書評<DOPESICK~アメリカを蝕むオピオイド危機>

本来はガン患者など、重篤な患者に処方される強力な鎮痛薬であるオピオイド。アヘンやモルヒネと同系列の中毒性のあるこの鎮痛剤を、開発した製薬メーカーは全米の医師に”万能の鎮痛剤”として営業をかける。ちょうどその時期、アメリカでは”ペイン・コントロール”の概念が導入され、患者の痛みを和らげることこそが医師の評価とされ、医師たちも積極的にオピオイドを処方するようになる。やがて患者たちはオピオイド依存となり、オピオイドを手に入れるために人生を台無しにし、過剰摂取によるショック死を招くことになる。”処方薬”が招いたアメリカの社会問題をあぶり出すノンフィクション。

 

本書の著者はバージニア州の小さな街のジャーナリスト。彼女がオピオイド禍のノンフィクションを上梓したのにはわけがある。バージニア州やその近隣の地区は、かつては石炭採掘や製造業で賑わっていたが、それらが海外移転したために寂れた労働者の街。失業者たちは長年の労働で体を痛め、失業保険や生活保護を頼りに病院に通っていた。そこでオピオイドを処方されたのだ。彼らが最初の中毒者となり、それはやがて若者へと伝染していく。さらに、その状態を見た都市の麻薬ディーラーたちは、オピオイドに連なるハードドラッグ各種を持ち込む。結果は過剰摂取による死と、犯罪の蔓延だ。オピオイド禍は製薬会社の意図的な情報操作と、危険な鎮痛剤の過剰な処方を厭わない一部の医師が原因ではあるが、一方でアメリカのバイブルベルトと呼ばれる製造業壊滅地区の社会構造の問題でもあるのだ。

本書の後半は中毒者たちの社会復帰の方法と、その難しさが報告される。一度でも中毒に陥ると、その社会復帰の難しさがよく理解できる。家族も、地域も巻き込んで多くの人を混乱に巻き込まれていくのだ。ドラッグからの解脱はさほどに難しい。アメリカはそれを支える体制にはない。むしろ、中毒者や麻薬ディーラーを収監する刑務所産業が活況を呈している有様だ。本書にはアメリカの大分断の原因を見事に描き出している。

初版2020/02  光文社/kindle版

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