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2021.01.19

書評<弾道弾 (兵器の科学1)>

強力なロケットで宇宙空間にペイロードを打ち上げ、再突入体をマッハ20を超える速度で地上の目標に投射する弾道弾は現在のところ、人類が持つ究極の兵器である。また、強力な推力を生み出すロケット技術、大気圏突入に伴う超高温に耐えうる材料技術、数千㎞に及ぶ飛行を制御する誘導技術と、技術的にも最高峰の科学技術の固まりでもある。本書は弾道弾本体やそれに対抗するミサイル探知や防衛について、数式を用いながらも平易に解説する。

本書の著者は物理学者でもあり、ロシア製兵器にも精通している。なので弾道弾の特性を解説する例としてソ連(ロシア)製のミサイルを上げるのが本書の特筆すべき点だ。そうした技術的事例を通して、ミリオタや専門家が”知ってるつもり”の知識がいかにあやふやなものかを再確認させてくれる。また、弾道弾について学ぶとき、弾道や軌道とはそもそも数学と同一と呼ぶべきものであるくらい難解なものであるが、逆に言えばそれを多少なりともその基礎を理解出来れば、ネットに溢れる不正確な情報の真偽を確かめる参考になるだろう。現代兵器の知識を求めるなら、必須の一冊である。

初版2020/11  明幸堂/ハードカバー

2021.01.18

書評<南北戦争-アメリカを二つに裂いた内戦>

南北戦争はアメリカの歴史の中で最大のターニングポイントである。アメリカが奴隷制度を巡って南部と北部に分裂し、内戦を戦ったことは現在まで多大な影響を残している。本書はその南北戦争の軍事的・政治的経緯を簡潔にまとめた入門書であり、内戦が残したものを問う。

自分を含むミリオタの多くが、南北戦争のことは意外と知らない。軍事的に見れば、第1次世界大戦ほどは兵器に革命的な進化は起きておらず、戦略・戦術も洗練されたものではない。政治的にも、リンカーン大統領を含めて意外と煮え切らないリーダーや将軍たちの姿が目立つ。だが、南北戦争中の何年かに急速に軍事、政治とも洗練されていき、現在のアメリカ合衆国になっていく。そうした変化を本書はよく捉えている。本書を読めば、2021年現在のいわゆる「アメリカの分裂」も、経済格差や人種差別といったものだけが原因ではなく、合衆国の歴史的経緯がそれをもたらしていることがよく分かる。「本書を読めば南北戦争が分かる」と書くと著者本人が笑うかもしれないが、トランプ大統領の集会で南部連合旗が躍ることに多数の意味が見いだせることは理解できる。

初版2020/12    中央公論新社/ソフトカバー

2021.01.17

書評<宇宙考古学の冒険 古代遺跡は人工衛星で探し出せ>

近年、観測衛星が地球軌道から撮影するレーダー画像や広域写真が広く出回るようになった。その恩恵を受けている分野は多方面に渡るが、考古学もその1つである。考古学において、現地発掘調査はなくてはならないものだが、そもそもどこを掘るかは地域住民からの聞き取りや古い文献調査など多大な時間を要するものである。そこで考古学者は衛星画像に目をつけた。ジャングルや砂漠に残る人為的な直線部分、地表上にはまったく残っていない遺跡の痕跡を探す際、衛星画像は非常に有用である。特に近年、解像度が上がったデジタル画像を様々なフィルターやアプリにかけることにより、画期的な発見につながっている。本書は宇宙考古学のパイオニアであり、BBCなどとの共同プロジェクトでも有名な著者が、宇宙考古学の成り立ちについて解説し、その将来を解説する。

 

著者の専門はピラミッドに代表される、古代エジプト王国の歴史である。膨大な遺跡が存在するものの、それは広域に散らばっているし、砂に埋もれているものも多い。そうした遺跡の発掘にいまや衛星画像が欠かせないことを著者は教えてくれる。人間が歩いて調査するには限界があるし、航空機で広域を調査するにしても膨大な費用がかかる。衛星はレーダー、赤外線、可視光線を組み合わせることにより、調査の対象を効果的に見つけることが出来る。もちろん、衛星画像にも限界はある。著者はエジプトだけではなく、中世のヴァイキングの遺跡調査なども実施しているが、空振りに近いことも多い。それでも、軍事偵察衛星から発展した技術は、様々な遺跡調査に用いられるだろう。

そして著者は、エジプトで問題になっている盗掘を防ぐことにも衛星が使えると説く。定期的に軌道を周回する衛星で定点を観測すれば、侵入者を探知できるのだ。盗掘を防ぐにはそうした犯罪調査まがいのことだけではなく、そもそも盗掘が経済情勢によることを著者は主張し、格差改善を説く。個人的にこのことについては違和感があった。遺跡を発掘して多くの歴史的な遺物をエジプトから著者の出身地である欧米に持ち帰ったのは広義の盗掘ではないのか?経済格差を生み出している要因は、エジプト政府だけではなく、欧米各国にあるのではないか?こうしたことに目をつぶって説く”遺跡発掘の現在と未来”に正当性はあるのか?衛星画像の活用という冒険の面白さと同時に、遺跡発掘に伴うジレンマを感じさせる一冊であった。

 

初版2020/09  光文社/ソフトカバー

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