書評<宇宙考古学の冒険 古代遺跡は人工衛星で探し出せ>
近年、観測衛星が地球軌道から撮影するレーダー画像や広域写真が広く出回るようになった。その恩恵を受けている分野は多方面に渡るが、考古学もその1つである。考古学において、現地発掘調査はなくてはならないものだが、そもそもどこを掘るかは地域住民からの聞き取りや古い文献調査など多大な時間を要するものである。そこで考古学者は衛星画像に目をつけた。ジャングルや砂漠に残る人為的な直線部分、地表上にはまったく残っていない遺跡の痕跡を探す際、衛星画像は非常に有用である。特に近年、解像度が上がったデジタル画像を様々なフィルターやアプリにかけることにより、画期的な発見につながっている。本書は宇宙考古学のパイオニアであり、BBCなどとの共同プロジェクトでも有名な著者が、宇宙考古学の成り立ちについて解説し、その将来を解説する。
著者の専門はピラミッドに代表される、古代エジプト王国の歴史である。膨大な遺跡が存在するものの、それは広域に散らばっているし、砂に埋もれているものも多い。そうした遺跡の発掘にいまや衛星画像が欠かせないことを著者は教えてくれる。人間が歩いて調査するには限界があるし、航空機で広域を調査するにしても膨大な費用がかかる。衛星はレーダー、赤外線、可視光線を組み合わせることにより、調査の対象を効果的に見つけることが出来る。もちろん、衛星画像にも限界はある。著者はエジプトだけではなく、中世のヴァイキングの遺跡調査なども実施しているが、空振りに近いことも多い。それでも、軍事偵察衛星から発展した技術は、様々な遺跡調査に用いられるだろう。
そして著者は、エジプトで問題になっている盗掘を防ぐことにも衛星が使えると説く。定期的に軌道を周回する衛星で定点を観測すれば、侵入者を探知できるのだ。盗掘を防ぐにはそうした犯罪調査まがいのことだけではなく、そもそも盗掘が経済情勢によることを著者は主張し、格差改善を説く。個人的にこのことについては違和感があった。遺跡を発掘して多くの歴史的な遺物をエジプトから著者の出身地である欧米に持ち帰ったのは広義の盗掘ではないのか?経済格差を生み出している要因は、エジプト政府だけではなく、欧米各国にあるのではないか?こうしたことに目をつぶって説く”遺跡発掘の現在と未来”に正当性はあるのか?衛星画像の活用という冒険の面白さと同時に、遺跡発掘に伴うジレンマを感じさせる一冊であった。
初版2020/09 光文社/ソフトカバー
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