書評<ドナウ川の類人猿: 1160万年前の化石が語る人類の起源>
我々ホモ・サピエンスの起源を巡っては、定説である「アフリカ起源説」に疑問を投げかける新化石の発掘は相次いでいる。本書が解説する「ドナウ川の類人猿」もその1つだ。近年発掘された謎の類人猿の化石と、1160万年前の地中海の気候を概説し、その発見の意味を問う。
ドナウ川近辺といえば肥沃な土地の一つであり、人類文明発祥の地の1つでもある。そこで発見された類人猿の化石に注目が集まるのも当然だろう。本書は地中海が気候変動によって干上がっていた「メッシニアン塩分危機」と呼ばれる時代に、ヨーロッパにもアフリカのサバンナに似た気候であったこととも合わせて、人類の起源がアフリカ単一ではなかったことを訴える。
しかしながら、本書全体としては「化石の時代測定方法」や「ホモサピエンスの発展への道」といった解説に多くのページが割かれ、本論の印象は薄い。本書で取り上げる「ドナウ川の類人猿」と同じ時代の化石発掘はアジアでも進んでおり、謎が多くなるばかりの「ホモサピエンスの起源」を無理やりヨーロッパに持ってくるのは少し無理があるであろう。いま一歩の著書である。
初版2020/11 青土社/ソフトカバー
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