書評<コーカサスの紛争 ゆれ動く国家と民族>
カスピ海と黒海に挟まれた山岳地帯、コーカサス。交易の結節点でもあるこの地域は地形的に分断していることから複数の民族が入り混じって国家、あるいは未承認国家を構成しているが、そのせいで紛争が絶えない。ロシアやトルコといった大国の支配地域でもあったことから、ソビエト連邦成立とその崩壊にも大きな影響を受け続けている。本書は地域研究の第一人者である著者がコーカサスの諸民族とその歴史を紹介しながら、その対立を、地域と民族に分解しながら解説、各地域の紛争の解決策を探っていく。
ソ連の崩壊以来、常に何らかの紛争を抱えているコーカサス地方。近年ではナゴロフ=カラバルを巡る、ドローンを多用した近代的な戦闘で話題になった。ソ連崩壊後に起こったチェチェン紛争の惨状もよく知られるところだろうが、実際にどんな地形の国に、どんな民族が住んでいて、どのような領域的対立や宗教的対立を抱えているかの全貌を知ることは簡単ではない。本書はそんなコーカサス地方の抱える紛争を詳細に解説していく。ソ連(ロシア)の弾圧や無差別テロなども多く起きた土地であることから、感情的な視点から語られることも多い同地域だが、本書はあくまでしっかりとした事実に基づいた記述や現地の世論調査による学術的な視点でコーカサスが解説されており、ある意味ドライな点が逆に信頼がおける。未承認国家の成立案件や国際慣習法に拠った紛争解決法の提示などは、他の複雑な民族居住地域の研究にも参考になるだろう。同地域を語るのに必須な一冊である。
初版2021/03 東洋書店新社
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