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2021.06.05

書評<欧州の排外主義とナショナリズム―調査から見る世論の本質>

2010年代後半から、欧州では中東・アフリカ地域からの難民・移民の急激な増加や、イスラム過激派のテロの影響により、右翼政党の台頭など排外主義が高まっている。それ以前も欧州への移民はもちろんあったが、シリア内戦やISの台頭による急激な移民・難民の増加は多くの地域で地元住民との摩擦を表面化させた。さらに、人権・人道の観点から難民受け入れを是とするEUのエリートたちと、各国で現実に宗教や価値観が異なる移民・難民と接することになる住民との乖離も排外主義が高まる要因となっている。本書はマスコミなどで報じられる「移民・難民と雇用を争う低賃金層が右翼政党に選挙で票を投じている」という一般的な分析、つまり経済的な要因が排外主義の台頭を促しているのが真実なのか、世論調査を精密に分析することにより明らかにしていく。

本書は読んでまず感じるのは「世論の動向を正確に把握する世論調査の方法と分析はある」ということだ。アメリカ大統領選で世論調査の結果とまったく反対にトランプ氏が当選したあたりから、世論調査に対する正確性が大きく問題になった。”ポリティカルコレクトネス”なるものが政治家だけではなく、一般市民にも求められる昨今、世論調査で「自分の内心を正直に答える」ことに躊躇する人が増えている。自分も電話での世論調査の経験があるが、単純で誘導的な質問が多くあり、現実の社会を反映しているかは大きな疑問だ。だが、巧みに質問を構成し、数学的な分析を取り入れることで世論調査の正確性を高める方法があることを本書は解説する。その後、本論である「欧州における排外主義とナショナリズムの高まりは経済的な要因か否か」を分析していく。

もちろん、一口に「欧州」「EU」といっても多様な国家、地域を抱えており、歴史的経緯もあって一面的に語ることはできない。政治家が選挙に勝利するために、あえて排外主義を主張し、選挙民の価値観の変化と相互作用することもあるだろう。だが、フランスやポーランド、ラトビアなど状況が異なる国の世論調査の分析を通して一貫しているのは「貧困層が排外主義を肯定している」のではないことだ。宗教・文化的な要因に拠るところが大きいのである。もう一つは「EUへの反感」である。大きな”理想”を抱えたEUだが、前段で述べたように移民・難民と接するのはエリートたちではなく庶民であり、宗教や慣習の違いによる摩擦を体験し、テロや犯罪の被害者になるのは庶民である。政治的な正しさと現実社会の摩擦が、排外主義とナショナリズムの高まりに繋がっていることを、本書は証明しているのである。

日本でもネットを中心に「キレイごとと現実」の摩擦が起きているが、せめてマスコミには本書にあるような世論調査の方法を取り入れ、正確な報道に務めて欲しいものである。

 

初版2021/03 新泉社/ソフトカバー

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