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2021.09.26

書評<アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく>

古来より人類は海の恩恵に与(あずか)ってきた。魚類に代表される海洋生物資源、海底に眠る天然資源。だが広いようで狭い海洋は厳しい世界であり、各国政府の警察権力も届かない。ゆえに過酷な労働環境の漁船での仕事に従事する男たちの実質的な人身売買が横行し、海洋警察の装備が貧弱な国での違法操業が横行する。貴重な自然環境の破壊を気にもぜず、海底油田を掘り当てようとする石油企業。日本の捕鯨船に実力行使で対抗しようとする自称環境保護団体”シーシェパード”も「アウトロー」だ。本書はニューヨークタイムズの記者が実際に違法操業を繰り返す漁船やシーシェパードの船舶に乗り込み、”無法者の海”の実態を暴いている。

 

日本は世界でもまれな魚類消費国であり、近海での乱獲ぶりは世界の環境保護活動家どころか、日本国内の水産関係者からも批判される。だが、太平洋にはもっと過酷な漁業が存在し、奴隷のように甲板員を使い捨て、公海・領海問わずにごっそりと海洋資源を獲っていく違法な漁船が跋扈している。甲板員の供給源はカンボジアなどアジアの貧困地帯、違法漁船の所有企業の国籍は韓国、台湾、タイなどの沿岸国、操業するのは南氷洋を含む過酷な海洋上と、該当する国は多国籍となり、その取り締まりは遅々として進まない。

取り締まる側にも事情はある。広大な海洋を監視できる国は少なく、人身売買に対しても、地方と都市の格差が大きな東南アジア各国は国家警察の取り締まりが及ぶ範囲は狭い。海洋環境を守るグリーンピースやシーシェパードは少ない戦力でアウトローたちに対抗しようとしているが、大抵の場合は徒労に終わる。

本書で取り上げられる無法者たちは、漁業だけではなく、合法スレスレの船舶売買や海賊行為など多岐に渡る。島国である日本は世界的に見ても海洋が身近な国だが、想像が及ばない”過酷な海”がそこかしこにあるのだ。今一度、近隣のスーパーに並ぶ海産物の生産国を見直すきっかけになる一冊である。

 

 

初版2021/076  白水社/ソフトカバー

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